「歯が長くなった気がする」を、放置していませんか

老化と思いがちな見た目の変化が持つ意味
「歯が長くなった気がする」という変化は、加齢による見た目の問題ではなく、歯ぐきが実際に下がってきている歯肉退縮(歯を支える歯肉が根元方向に後退する状態)のサインである可能性があります。鏡を見て歯と歯ぐきの境界が以前より下がっていると感じたり、歯と歯の間に隙間が目立つようになったりするのは、歯肉の位置が変化しているからです。
こうした見た目の変化は「老けて見える」と気にされる方が多い一方で、それが口の中の状態の変化を示しているという認識には至りにくいものです。しかし歯肉退縮は、健康な状態では歯ぐきの中に守られているはずの歯の根の部分(根面)が、外部にさらされてきていることを意味します。審美的な問題にとどまらず、歯の構造的なリスクが生じ始めているサインとして受け取る必要があります。
痛みがないから大丈夫、という誤解
歯肉退縮が進んでいても、多くの場合は痛みや強い違和感が出ないため、「痛くないから問題ない」と判断してしまいがちです。歯周病は慢性の感染症であり、炎症が骨や歯肉をじわじわと侵食する過程では、自覚できる症状がほとんど現れないことが特徴的です。
冷たいものがしみるといった知覚過敏の症状が出れば異変に気づきやすいですが、歯肉の退縮そのものは痛みを伴わないケースが大半です。「なんとなく歯が長くなった気はするけれど、生活に支障はない」という段階こそ、歯周病が静かに進行していることが多い時期でもあります。痛みのなさを「問題なし」の根拠にしてしまうと、組織の変化が見えないまま進行を見逃すことになります。
気づいたときには進んでいる、歯肉退縮の怖さ
歯肉退縮が厄介なのは、変化が緩やかであるために「いつから下がったのか」を正確に把握しにくい点にあります。歯ぐきの位置は数年単位でじわじわと変化するため、定期的に記録を残していない限り、ある日突然「気づいたら歯が長くなっていた」という状態になります。
歯肉の退縮が生じているということは、その下にある歯を支える骨(歯槽骨)も同時に変化している可能性があります。歯肉と骨は密接に連動しており、骨の吸収が先行していることも少なくありません。「歯が長く見える」という気づきは、表面に現れた変化のひとつにすぎず、その背後で骨レベルの変化が起きていることを示唆しているケースがあります。見た目の変化を感じた段階で、口腔内の状態を専門的に評価してもらうことが、その後の選択肢を広げることにつながります。
歯ぐきが痩せる「歯肉退縮」で口の中に起きていること

歯肉退縮が起きる仕組みと歯周病との関係
歯肉退縮は、歯周病によって引き起こされる炎症が歯を支える組織を段階的に破壊していく過程で生じます。歯と歯肉の境目に蓄積したプラークの中に潜む歯周病菌が毒素を放出し、それに対する体の免疫反応が慢性的に続くことで、歯肉の組織が変質していきます。
炎症が持続すると、歯肉を構成する線維組織が弱まり、歯肉全体が根元方向へ後退するという変化が現れます。歯磨きの圧力が強すぎる場合にも歯肉退縮が起こることがありますが、歯列全体に広がる退縮については歯周病の関与が主要因として考えられるのが一般的です。
見た目には「歯が長くなった」と感じるだけの変化であっても、その背景では歯周組織の炎症が慢性的に続いている状態であることが多く、外見の変化は組織の変質がすでに一定以上進んでいることを示すサインとも言えるでしょう。
歯ぐきが下がると露出する「根面」とは何か
歯肉退縮が進むと、本来は歯肉に覆われているはずの歯の根の部分が口腔内に露出します。この露出した根の表面を根面と呼びます。歯の根は、歯の頭の部分(歯冠)を覆うエナメル質ではなく、セメント質という比較的薄くやわらかい層で覆われており、構造的に外部刺激に対して脆弱な性質を持ちます。
歯冠部のエナメル質は酸や細菌に対してある程度の耐性を持ちますが、根面のセメント質はその耐性が低いため、虫歯菌の攻撃を受けやすい状態になります。冷たいものや甘いものがしみるといった症状は、根面が露出した際に現れやすい感覚変化の一つです。
「鏡を見ると以前より歯と歯肉の境界が低い位置になっている」と感じる方は、すでに根面が一定程度口腔内にさらされている可能性があります。この状態では、口腔内の細菌が根面に直接触れやすくなっており、虫歯や歯周病がさらに進みやすい環境が形成されています。
退縮が進むほど骨の吸収も連動して広がる理由
歯肉退縮と歯槽骨(歯を支える骨)の吸収は、独立して起きるのではなく、同じ炎症プロセスが引き起こす連動した変化として理解されています。歯肉が後退する際には、その下にある歯槽骨も同様に吸収が進んでいることが多く、表面に見える歯肉の変化は骨の変化を反映しているとも言えます。
歯周病菌の毒素に対する免疫反応では、炎症性物質が放出されることで骨を吸収する細胞が活性化します。この状態が長期間続くと、骨の吸収が歯根の深い位置まで及ぶことがあり、やがて歯を支える土台そのものが失われていきます。
退縮の量が多いほど、骨吸収がより広範囲にわたっている可能性が高まります。歯が「長く見える」という外見の変化は、この骨吸収の進行度を間接的に示す手がかりであり、歯科医師が診断の際に退縮の程度を重要な指標として確認する理由がここにあります。
歯が長く見える変化が示す、歯周病の進行ステージ

歯肉退縮の量と歯周病進行度の対応関係
歯ぐきが下がる量が増えるほど、歯周病の進行度も上がっている可能性が高くなります。歯肉退縮の程度は、歯と歯ぐきの境界線(歯肉縁)がどこまで根元側へ移動しているかで確認できます。軽度の段階では歯冠(歯の見える白い部分)の長さがわずかに変わる程度ですが、中等度以上になると根面が数ミリ単位で露出し、歯が明らかに長く見えてきます。
歯周病の進行ステージは、歯肉退縮単独ではなく、歯周ポケット(歯と歯ぐきの間の溝)の深さや歯槽骨の吸収量と合わせて評価されます。退縮が2〜3ミリ程度であっても、ポケット深部に感染が及んでいるケースがある一方、退縮量が大きくてもポケットが浅い場合もあり、見た目だけで進行度を自己判断することは難しいと言えるでしょう。
「歯が長くなった」と感じた時点で、すでに歯肉退縮がある程度進行しているサインです。その変化が歯周病によるものかどうかは、歯周病検査でポケットの深さや出血の有無を確認することで、はじめて正確に把握できます。
根面露出が引き起こす根面う蝕のリスク
歯肉退縮によって根面が露出すると、虫歯(う蝕)の発生リスクが大きく跳ね上がります。歯の根の表面はエナメル質(歯冠を覆う硬い組織)で守られておらず、セメント質と呼ばれるより薄い層で覆われているだけです。この部位はプラーク(歯垢)が付きやすく、酸に対する耐性も歯冠部より低いため、虫歯菌の影響を受けやすい構造になっています。
根面う蝕(根の表面に生じる虫歯)は進行が速い傾向があります。エナメル質がないぶん、細菌の侵食が歯の内部へ達するまでの距離が短く、気づかないうちにかなり深くまで進んでいることがあります。根面が広く露出しているほど、複数の歯に同時進行するケースも見られます。
歯が長く見えるようになってから「しみる感覚」が出てきた場合、根面う蝕が始まっている可能性も視野に入れる必要があります。歯周病の進行と根面う蝕が重なると、歯を支える組織と歯質の両方が同時に失われていくため、治療の複雑度が上がります。
複数の歯に退縮が広がっているときのサイン
歯肉退縮が1本の歯にとどまらず、複数の歯に広がっているときは、全顎的な歯周病の進行を疑うサインとして受け止める必要があります。1本だけであれば歯ぎしりや強すぎるブラッシングなど局所的な要因も考えられますが、前歯から奥歯にかけて広範囲で歯ぐきが下がっている場合、歯周病菌による慢性的な炎症が口腔内全体に広がっている可能性が高くなります。
特に上下の奥歯に退縮が見られ、歯と歯の間の歯ぐき(歯間乳頭)が痩せてきて「すきっ歯」のように見える変化が出ている場合、歯槽骨の吸収が広い範囲で進んでいることが多いとされています。見た目の変化が全体的にじわじわと現れているにもかかわらず、痛みがないためなかなか受診につながらないケースが少なくありません。
複数の歯にまたがる歯肉退縮は、1本ずつの状態だけでなく、口腔内全体を俯瞰した評価が診断の核心になります。レントゲンや歯科用CT、歯周病検査を組み合わせることで、どの部位でどの程度骨が失われているかの全体像が初めて見えてきます。
歯科医が歯肉退縮から読み取る「進行度の判断基準」

歯周ポケットの深さと骨吸収量で何を見るか
歯科医が歯肉退縮の程度を評価する際、最初に確認するのは歯周ポケットの深さと、レントゲンや歯科用CTから把握できる骨吸収の範囲です。歯肉が退縮しているだけでは、歯周病の進行度は正確にはわかりません。退縮による見た目の変化と、骨が実際にどこまで吸収されているかは、必ずしも一致しないためです。
健康な歯周ポケットの深さは1〜3mm程度とされています。これが4mm以上になると炎症の影響が歯を支える組織の深部に及んでいると考えられ、6mm以上になると外科的処置の適応を検討する段階とも言われています。骨吸収の範囲については、歯科用CTを用いた三次元的な評価によって、平面的なレントゲンだけでは把握しにくい部位の状態も確認することができます。
歯ぐきが痩せていると感じる場合でも、骨の吸収が軽微な段階にとどまっているケースがある一方、見た目の変化は小さくても骨吸収が広範囲に進んでいるケースもあります。歯科医がポケットの深さと骨吸収の両方を確認するのは、こうした「見た目と内部状態のズレ」を正確に把握するためです。
根面露出の範囲と歯の動揺度が示すもの
根面が露出している範囲の広さと、歯のぐらつきの程度は、歯周病の進行度を評価するうえで重要な指標です。歯冠との境界線から根面が露出している量が多いほど、歯槽骨の吸収がより根尖側(歯根の先端方向)に向かっていることを示す場合があります。
歯の動揺度は、歯科用の器具で歯に力を加えたとき、どの程度揺れるかを段階的に評価したものです。動揺が大きいほど、歯を取り囲む骨の支持が失われている可能性が高いと判断されます。動揺が認められない段階でも根面露出が進んでいる場合は、骨の吸収が歯の周囲全体には及んでいないケースも考えられます。
一方、根面露出が比較的少なくても動揺が生じている場合は、特定の部位で集中的に骨が失われていることが背景にある場合があります。この組み合わせをどう読み取るかが、治療方針を左右する判断の核心のひとつです。
全顎的な歯周病既往がある場合の評価の考え方
歯列全体に歯周病の既往がある場合、個々の歯の状態だけでなく、口腔全体の骨吸収パターンや炎症の分布を把握することが診断の出発点になります。1本の歯の退縮が目立つ場合でも、他の歯にも同程度の変化が静かに起きている可能性があるためです。
広尾麻布歯科では、初診時に口腔内写真や歯周病検査、レントゲン撮影などを組み合わせて口腔全体の状態を把握しています。全顎にわたる歯周病の評価では、各歯の歯周ポケット深さ、根面露出の量、骨吸収の程度を部位ごとに記録し、全体のパターンを整理したうえで治療の優先順位を検討します。
「鏡で見ると歯が長くなった気がする」と感じている方の多くは、複数の歯で同時に変化が進んでいるケースも少なくありません。気になる歯が1本あるときこそ、口腔全体を一度精密に確認しておくことが、その後の治療選択に大きく影響してきます。
歯肉退縮が進んだ歯に対して検討される治療の選択肢

歯周ポケット掻爬術・歯肉剥離掻爬術の適応
歯肉退縮が生じている歯に対する外科的処置は、退縮そのものを元に戻すことよりも、進行を止めて歯周組織の環境を整えることを主な目的として行われます。歯周ポケット掻爬術は、歯ぐきを切開せずに器具を挿入して歯根面の汚染物質や歯石を除去する処置で、ポケットの深さが比較的浅い段階で適応されることが多い方法です。
一方、歯肉剥離掻爬術(フラップ手術)は、歯肉を切開・剥離して視野を確保した上で、より深部の歯石や炎症組織を直視下で取り除く処置です。退縮と骨吸収が一定以上進行し、器具が届きにくくなった領域では、この術式が選択されることがあります。どちらを選ぶかは、歯周ポケットの深さや骨の吸収範囲、歯肉の形態といった複数の因子を組み合わせて判断されるため、同じ口腔内でも歯ごとに適応が異なるケースがあります。
外科的処置と歯周組織再生療法が組み合わされる場合
歯肉剥離掻爬術を行う際、骨吸収の状態によっては歯周組織再生療法を組み合わせることが検討される場合があります。再生療法とは、歯周病によって失われた骨や歯根を支える組織の回復を促すことを目的とした処置で、フラップ手術の術野を活用して実施されることが一般的とされています。
ただし、再生療法が有効に機能するには条件があります。再生可能な骨の形態が残っているか、感染のコントロールが十分に行われているか、そして患者さん自身の日常的なプラーク管理が一定水準に達しているかといった点が、治療の経過を左右する要因として挙げられます。退縮が広範囲にわたり、骨吸収も進んでいる状態では、フラップ手術単独ではなく再生療法との組み合わせが選択肢として浮かぶことがありますが、すべての症例に適応されるわけではありません。外科的な介入を伴う処置については、術前の精密な診査によって適応を見極めることが不可欠です。
根面う蝕が生じていた場合の虫歯治療との連携
歯肉退縮によって根面が露出した歯では、露出した部分にう蝕が生じている場合があり、その場合は歯周病治療と虫歯治療を連携させながら進めることになります。根面は歯冠を覆うエナメル質がなく、内側のセメント質や象牙質が直接口腔内にさらされた状態のため、プラークが付着しやすく、う蝕の進行速度も速い傾向があります。
治療の順序としては、まず歯周炎症のコントロールを優先するのが一般的です。炎症が残ったまま修復処置を行っても、出血や組織の不安定さが接着の精度に影響するからです。根面う蝕の範囲が歯肉縁下(歯ぐきの中)にまで及んでいるケースでは、歯周外科処置によって術野を確保した上で修復処置を行う流れになることもあります。コンポジットレジンによる修復が行われるケースでは、接着操作の精度が治療の耐久性に直結するため、乾燥した清潔な術野を確保できるかどうかが重要なポイントとなります。
歯周病治療の効果を左右する、日常ケアとの関係

歯肉退縮が止まらない口腔環境の共通点
歯肉退縮が継続する口腔環境には、プラークの慢性的な堆積と、それによる歯肉の持続的な炎症という共通した背景があります。歯周病の外科処置や歯周ポケットへのアプローチを行っても、日常のセルフケアが不十分な状態では、細菌の再定着が繰り返され、退縮の進行が続くことがあります。
見落としがちなのは、歯と歯の間や歯肉縁のすぐ下に残るプラークです。歯ブラシだけでは届きにくいこうした部位に歯周病菌が定着し続けると、炎症が慢性化して組織の破壊が静かに進みます。特に歯周病の既往がある場合、歯肉が退縮して根面が広く露出するにつれ、清掃が難しい形状に変化することもあります。
歯間ブラシやデンタルフロスを歯ブラシと組み合わせることで、プラーク除去の範囲は大きく広がります。使用するサイズや挿入角度も歯並びや歯肉の状態によって異なるため、担当の歯科衛生士から個別に指導を受けることが、実際の清掃効率を高める鍵となります。
プラークコントロールが治療成果を決める仕組み
歯周病治療の効果を持続させられるかどうかは、外科的処置の精度だけでなく、処置後にプラークをどれだけ除去できるかに大きく左右されます。歯周ポケットの掻爬や歯肉剥離掻爬術によって細菌の温床を取り除いても、プラークが再び蓄積すれば炎症が再燃し、歯槽骨の吸収が再び進むリスクが生じます。
プラークが歯面に付着してから歯周病菌が活発に増殖し始めるまでには一定の時間があります。この性質を利用して、毎日のセルフケアで細菌の増殖サイクルを断ち続けることが、歯周組織を安定させる基盤となります。治療を受けた後に状態が改善しても、ケアが途切れると短期間で環境が戻ってしまうことがあるのはこのためです。
プラークコントロールの精度は、磨き方の習慣だけでなく、唾液の量、補綴物の適合状態、歯の位置関係など複数の要因にも影響されます。自己流のケアを続けることで「磨けている」と感じていても、実際には磨き残しが集中しているケースは珍しくなく、定期的な検査での確認が欠かせません。
担当衛生士と継続的に取り組むメインテナンスの役割
歯周病治療後の状態を安定させるうえで、定期的なメインテナンスは治療そのものと同等の意味を持ちます。セルフケアでは除去しきれない歯肉縁下のプラークや、硬化した歯石は、専門的なクリーニングによって取り除く必要があります。
当院では担当衛生士制度を採用しており、患者さんごとの口腔内の状態を継続的に把握しながらメインテナンスを行っています。同じ担当者が経過を追うことで、歯肉の炎症の変化や歯周ポケットの深さの推移を比較しやすくなり、変化を早い段階で察知することが可能です。
メインテナンスの間隔は、歯周病の進行状況やセルフケアの習熟度によって異なります。歯肉退縮が複数歯にわたる場合や、根面露出の範囲が広い場合は、より短い間隔でのフォローが求められることがあります。定期的に通うことで、清掃の癖や磨き残しの傾向を衛生士と共有しながら改善を積み重ねていく、その継続的な関わりが治療成果を支える土台となります。
治療を相談する歯科医院を選ぶときの3つの視点

歯周外科処置と精密検査への対応範囲
歯肉退縮が進み、歯周ポケットの深さや骨吸収の程度が一定以上に達している場合、スケーリング(歯石除去)だけでは状態の改善が難しく、歯周外科処置を含めた対応が必要になることがあります。相談先を選ぶ際にまず確認したいのは、こうした外科的処置に対応できる診療体制が整っているかどうかという点です。
歯肉剥離掻爬術などの処置は、歯科用CTやレントゲンによる骨吸収量の把握、歯周ポケットの精密な計測といった事前診断と組み合わせて計画されます。検査の精度が治療の方向性を左右するため、精密検査と外科処置の両方に対応できる医院かどうかは、選択の重要な判断軸となります。歯周外科の適応判断には、根面露出の範囲や歯の動揺度など複数の要素が絡むため、検査体制が十分でない環境では治療計画そのものの精度に影響が出ることがあります。
初診時の検査内容が診断精度を左右する理由
初診時にどのような検査が行われるかは、その後の治療の質を大きく左右します。歯肉退縮や根面露出が見られる段階では、目視だけでは骨吸収の実態や歯周ポケットの深さを正確に把握することができません。レントゲンや歯科用CTによる画像診断、歯周病検査、口腔内写真の撮影などを組み合わせることで、初めて全体的な進行状況が見えてきます。
「歯が長くなった気がする」という変化が複数の歯に及んでいる場合、全顎を網羅した検査が欠かせません。1本ずつの状態だけでなく、歯列全体における炎症の分布や骨の残存量を把握することで、治療の優先順位や術式の選択が決まります。初診で行われる検査の項目数や精度が薄いと、その後の治療計画も表面的なものになりやすく、根面う蝕の見落としや外科処置の適応判断ミスにつながるリスクがあります。
長期的なメインテナンス体制と通院のしやすさ
歯周病は、外科処置や歯石除去が一段落した後も、継続的なメインテナンスによって状態を維持していく性質の疾患です。治療が終わった段階がゴールではなく、その後のプラークコントロールや歯周ポケットの定期的な確認が、退縮の再進行を抑える鍵を握ります。そのため、一時的な処置に強い医院より、長期的に担当者が変わらず状態を継続管理できる体制を持つ医院が、歯肉退縮の患者さんには適しています。
担当衛生士制度を採用している医院では、口腔内の変化を継続的に記録・比較することができ、わずかな状態の変化も見逃しにくくなります。加えて、仕事や生活リズムに合わせて受診できるかどうかも、メインテナンスを長続きさせるうえで現実的な条件です。「通える環境にあるか」という視点は、治療の良し悪しと同じくらい、長期的な口腔環境の維持に関わる要素と言えるでしょう。
歯肉退縮・根面露出についてよくある疑問への回答

一度下がった歯ぐきは元に戻らない?
歯肉退縮によって下がった歯ぐきは、基本的に自然に元の位置まで戻ることはありません。歯ぐきの組織は、歯周病による慢性炎症や歯槽骨の吸収を伴う変化の結果として後退するため、原因を取り除かない限り位置が回復しない構造になっています。
ただし、「元に戻らない」という事実は、「治療しても意味がない」とは異なります。歯周病治療によってプラークの管理状態が改善されれば、炎症が鎮静化し、退縮がそれ以上進行しにくい状態に持ち込むことが可能です。退縮の「停止」を目標とすることが、治療の現実的な方向性といえるでしょう。
加えて、重度の歯肉退縮がある症例では、外科的処置の選択肢が検討される場合もあります。どのような状態にあるかは検査なしには判断できないため、現在の退縮の程度を歯科医院で評価してもらうことが、次の方針を決める起点になります。
根面う蝕はどれくらい進みやすいのか
根面露出が生じた部位は、歯冠部に比べてはるかに虫歯が進行しやすい状態にあります。露出した根面を覆うセメント質は、エナメル質と比べて硬度が低く、酸への抵抗性も弱いため、口腔内の酸にさらされると比較的短い期間で表面が崩壊しはじめることが知られています。
歯冠部の虫歯は表面の変色や穴として比較的気づきやすいのに対し、根面う蝕は歯ぐきの際の目立ちにくい部位に発生するため、進行してから初めて発見されるケースも少なくありません。歯ぐきが痩せている部位が複数あるほど、リスクが広範囲に及ぶという点も見落としがちです。
根面う蝕が深部まで進行すると、通常の虫歯治療よりも対応が複雑になります。歯周病で支持組織が弱っている歯に根面う蝕が重なった状態は、歯の保存そのものを難しくする要因となるため、歯肉退縮が確認された段階で根面部の状態を同時に確認しておくことが、その後の治療選択肢を広げることに直結します。
歯周病治療を始めるタイミングに「遅すぎる」はあるか
歯周病の治療開始に「遅すぎる」という絶対的な基準はなく、現時点での状態を正確に把握したうえで対応策を検討することが出発点になります。歯槽骨がある程度吸収されていても、残存している骨と歯周組織の状態によっては、外科的なアプローチを含めた治療の余地が残っているケースがあります。
一方で、進行度が高いほど治療の選択肢が絞られ、患者さんへの身体的・時間的負担が増す傾向があることも事実です。「まだ痛くないから」「見た目だけの変化だと思っていた」というケースで来院されたとき、すでに歯肉退縮と骨吸収が広範囲に及んでいることは珍しくありません。
受診を迷っている間にも、口腔内の状態は変化し続けています。「今の状態が治療できる範囲かどうか」を判断するのは、検査を通じて歯科医師が行うことです。広尾麻布歯科では初診時にレントゲン撮影や歯周病検査を行い、現状の進行度を把握したうえで治療方針をご説明しています。まず状態を確かめるところから始められます。
歯周病の進行を正確に把握するために必要な精密検査

レントゲン・歯科用CTで骨吸収をどこまで確認できるか
歯科用CTは、通常のレントゲンでは捉えにくい骨の三次元的な吸収状態を把握するうえで有効な検査機器です。一般的なレントゲン撮影でも歯槽骨の吸収傾向はある程度確認できますが、歯の根の周囲や歯と歯の間の骨量、さらに頬側・舌側方向の骨の厚みは平面画像だけでは見えない部分が生じます。
歯科用CTを用いると、骨の吸収がどの方向にどの程度進んでいるかを立体的に確認できるため、歯周病の進行度評価や治療計画の精度が高まります。歯肉退縮が複数の歯にわたっている場合や、全顎的な歯周病の既往がある場合には、この三次元的な骨の評価が治療方針の判断をより確かなものにする根拠となり得ます。
歯周病検査で確認される6項目の意味
歯周病の現状を正確に把握するためには、歯周病検査で得られる複数の数値を組み合わせて読む必要があります。検査で確認される主な項目は、歯周ポケットの深さ、プローブを挿入したときの出血の有無、歯の動揺度、歯槽骨の吸収量、根面露出の範囲、そしてプラークの付着状況の6つです。
このうち、出血はポケット内の炎症が現在も続いているかどうかを示すサインとして特に重要です。痛みがなくても出血が認められる場合、炎症が粘膜の奥まで及んでいる状態と判断される場合があります。動揺度は歯槽骨の残存量と歯根膜の状態を反映しており、この数値が高いほど歯を支える構造が損なわれていることを意味します。6項目を総合することで、単一の数値では見えない歯周病の進行パターンが浮かび上がります。
口腔内写真と歯周病検査を組み合わせる理由
歯周病の進行状態を記録・評価するうえで、口腔内写真は数値データだけでは伝えきれない視覚的な情報を補完します。歯肉退縮の位置や範囲、歯と歯ぐきの境界の変化、根面露出の広がりといった情報は、写真として記録することで経時的な変化の比較が可能になります。
歯周病検査の数値は治療効果や進行度を定量的に評価するために不可欠ですが、「以前と比べてどれだけ退縮が進んだか」という変化のプロセスは、写真がなければ追うことが難しくなります。広尾麻布歯科では初診時にレントゲン撮影や口腔内写真、歯周病検査などを組み合わせた検査を行い、口腔内の状態を複合的に把握することを診療の起点としています。数値と画像を合わせて確認することで、患者さん自身も自分の口の中で何が起きているかを具体的に理解しやすくなります。
歯ぐきの変化が気になるなら、まず状態を確かめませんか

この記事で整理された歯肉退縮の重要なポイント
歯肉退縮は「老けて見える」という見た目の変化にとどまらず、歯周病の進行を知らせるサインとして機能しています。痛みがなくても、歯ぐきが下がっているという変化そのものが、歯槽骨の吸収や根面の露出が進んでいる状態を示している可能性があります。
根面露出が広がると、エナメル質に守られていない柔らかい歯質が口腔内に現れ、根面う蝕のリスクが高まります。歯周ポケットの深化と骨吸収が組み合わさると、治療の選択肢は段階的に絞られていくため、変化に気づいた時点で状態を評価することが、その後の選択肢の幅を左右します。
歯肉退縮は自然に回復することはなく、原因となる歯周病の炎症が残っている限り進行する性質があります。「歯が長く見える」という気づきを、見た目の問題として流さず、歯周病の進行度を確認するきっかけとして受け止めてほしいと考えています。
重度歯周病・根面露出に向き合う当院の診療姿勢
広尾麻布歯科では、初診時にレントゲン撮影・歯科用CT・口腔内写真・歯周病検査を組み合わせて、口腔内の現状を多角的に把握することを診療の出発点としています。「歯が長くなった気がする」「歯ぐきが下がってきた」という変化を感じている方に対しても、感覚的な印象ではなく、検査データに基づいた状態の評価をお伝えすることを大切にしています。
歯周病治療では、歯周ポケット掻爬術や歯肉剥離掻爬術といった歯周外科処置にも対応しており、炎症の除去とプラークコントロールしやすい環境づくりを目指した治療を行っています。根面に虫歯が生じている場合は、歯周治療と連携した対応が検討されます。治療後の再発を防ぐ観点から、担当衛生士による継続的なメインテナンス体制も整えています。
全室完全個室の診療室で、患者さん一人ひとりの状態と不安に向き合う環境を整えています。重度歯周病や根面露出の進んだケースでも、現状を正確に把握した上で、取り得る選択肢を丁寧にご説明することを診療姿勢としています。
気になる症状があるときの最初の一歩
「歯ぐきが下がっている気はするけれど、痛みはないし、もう少し様子を見ようか」と感じている方は、その迷い自体が長期化しているケースが少なくありません。歯周病による歯肉退縮は、自覚症状が乏しいまま骨吸収が進む性質を持っています。経過を見守っている間にも、根面露出の範囲や骨の吸収量は変化し続けることがあります。
最初の一歩は、現在の状態を数値と画像で確認することです。歯周ポケットの深さ・骨の吸収範囲・根面露出の程度を把握することで、治療が必要な段階かどうか、どの部位を優先すべきかが明確になります。「どうせ手遅れかもしれない」という気持ちで受診を先延ばしにする方もいらっしゃいますが、状態の把握なしに「手遅れかどうか」を判断することはできません。
歯ぐきの変化が気になっている方は、広尾麻布歯科へ一度ご相談ください。現在の口腔内の状態を正確に評価した上で、患者さん自身が治療方針を選択できるよう、丁寧な説明を心がけています。
監修:広尾麻布歯科
所在地〒:東京都渋谷区広尾5-13-6 1階
電話番号☎:03-5422-6868
*監修者
広尾麻布歯科
ドクター 安達 英一
*出身大学
日本大学歯学部
*経歴
・日本大学歯学部付属歯科病院 勤務
・東京都式根島歯科診療所 勤務
・長崎県澤本歯科医院 勤務
・医療法人社団東杏会丸ビル歯科 勤務
・愛育クリニック麻布歯科ユニット 開設
・愛育幼稚園 校医
・愛育養護学校 校医
・青山一丁目麻布歯科 開設
・区立西麻布保育園 園医
*所属
・日本歯科医師会
・東京都歯科医師会
・東京都港区麻布赤坂歯科医師会
・日本歯周病学会
・日本小児歯科学会
・日本歯科審美学会
・日本口腔インプラント学会
