歯が抜けたまま放置するとどうなる?|噛み合わせ・見た目・健康へのデメリット総まとめ - 広尾麻布歯科
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2025.05.09

歯が抜けたまま放置するとどうなる?|噛み合わせ・見た目・健康へのデメリット総まとめ

目次

失った歯が呼ぶ“連鎖崩壊”の第一歩

空いたスペースへ倒れ込む隣接歯

1 本抜けてできた空隙は“歯列ドミノ”のスタート地点です。歯は隣り合う力で垂直を保ちますが、支えを失うと歯根膜線維がたるみ、隣接歯がミリ単位でゆっくり傾斜します。日本補綴歯科学会の調査によると、下顎第一大臼歯喪失後 5 年で第二小臼歯の平均傾斜量は 4.2°。一見わずかでも歯間は三角形に開き、食片が詰まりやすい“フードインパクションゾーン”が出現します。

この部位は毛先が届きにくく、プラーク pH が酸性側に滞留しやすいため二次カリエスの温床に。さらに接触点消失で歯の横揺れが増幅し、歯根膜血流が低下して歯周組織の炎症抵抗力も落ちる——まさに「健全歯を巻き込む落とし穴」です。

噛み合わせがズレるシーソー現象

上下咬合は“多点支持の均衡”によって安定します。欠損で対合歯が遊離すると、挺出スピードは月 0.02 mm 前後と微小ながら、3 mm 超えで咬合干渉が顕在化。強接触側はエナメル微細亀裂から象牙質亀裂へ進み、メタルクラウンならセメント溶解、レジンならマージン破断が起こりやすくなります。

衝撃が集中した歯は歯根膜が炎症性浮腫を呈し、打診痛→咬合痛→自発痛へ遷移。逆側は咀嚼筋活動が低下し、筋萎縮と骨吸収を招きます。前後的バランスも崩れるため、前歯部で上顎前突様の開咬パターンが生じ、発音障害(サ行・タ行の舌足らず化)が現れるケースもあります。こうした多面的な咬合ズレは、最終的に全顎的な補綴再構築が必要になることも珍しくありません。

顎関節にかかる偏ったストレス

左右非対称咬合は下顎運動軌跡をほんの数ミクロン傾けるだけでも、関節円板と関節頭のポジションズレを引き起こします。早期接触側の顆頭は後上方へ押し戻され、関節円板が前方転位。滑膜炎が慢性化すると滑液の潤滑機能が低下し、クリック音からクレピタスへ、さらには開口障害へと病態が進行します。

顎関節症の患者データでは、欠損歯放置期間が長いほど CT で関節窩硬化像を呈する割合が高く、TMD スコアも有意に悪化。関節痛が続くと食事時間が短縮され咀嚼不足に拍車がかかり、栄養摂取バランスの崩壊、さらには全身筋力低下へ波及する“体調悪化ループ”を生みます。

噛めない=栄養不足!消化器への負担増大

咀嚼効率低下で消化吸収率ダウン

歯が1本でも欠損すると咀嚼効率は平均で約20~30%低下するといわれます。咀嚼には「食塊を細かく砕き、唾液酵素と混ぜて消化のスタートラインを作る」という重要な役割がありますが、噛み合わせが崩れると食塊は十分に粉砕されず、大きな塊のまま胃に落ち込みます。

すると胃酸の浸透に時間がかかり、タンパク質はペプシンに十分分解されないまま小腸へ送られ、吸収率が低下。とくに必須アミノ酸や脂溶性ビタミンは分子サイズが大きいため、咀嚼不足で消化酵素との接触面積が減ると吸収効率が3~4割落ちるという研究もあります。結果、いくら栄養価の高い食材を選んでも体内に取り込める量が減る“隠れ栄養失調”のリスクが上昇します。

柔らかい食品偏重による栄養バランス崩壊

噛みにくさを自覚すると、人は無意識にうどん・パン・ハンバーグなど柔らかく高糖質な食品に偏りがちです。逆に、硬い食感のある野菜・海藻・ナッツ類は敬遠され、摂取量が激減します。

すると食物繊維・ミネラル・オメガ3系脂肪酸が不足し、腸内細菌のエサとなるレジスタントスターチも減少。善玉菌優位だった腸内フローラは3週間ほどで悪玉菌が優勢になり、腸壁のタイトジャンクションがゆるむ「リーキーガット状態」へ。未消化のタンパク断片が血流に漏れ出し、全身の慢性炎症マーカー(CRPやIL‑6)がわずかに上昇します。

こうしたサブクリニカル炎症はインスリン抵抗性を高め、糖代謝の乱れや体脂肪蓄積へ直結するため、“噛めない→柔らか食→炎症と肥満”という負の連鎖が加速します。

胃腸トラブルとメタボリスクの相関

咀嚼不足で大きな食塊が胃に滞留すると、胃は強い蠕動と胃酸分泌で対処しようとします。これが続くと胃粘膜は過剰な酸に晒され、慢性胃炎や逆流性食道炎を発症しやすくなります。

粘膜防御のために分泌されるプロスタグランジンは食欲を低下させる一方、炎症サイトカインは肝臓での糖新生を高め、血糖スパイクを助長。さらに噛まないことで満腹中枢が刺激されにくく、食事量が無意識に増加しやすいことが知られています。

実際、欠損歯を有する中高年を対象にしたコホート研究では、咀嚼障害群のメタボリックシンドローム発症率は健全咬合群の約1.7倍。内臓脂肪が増えると歯周病原菌の血中移行を許すサイトカイン環境が整うため、歯周病とメタボが互いを増悪させる“炎症クロストーク”へ発展します。

したがって、欠損補綴で咀嚼機能を回復させることは、胃腸だけでなく全身代謝を守る一次予防策と言えるのです。

骨が痩せる…顎堤吸収というサイレント進行

歯根刺激を失った骨のリモデリング停止

歯槽骨は“噛むたびに加わる微細な圧力”を刺激として新しい骨を作り、古い骨を吸収するリモデリングを繰り返しています。しかし抜歯により歯根膜が消失すると、圧電効果による骨芽細胞の刺激が途絶え、破骨細胞の吸収が優位に。

文献では抜歯後6か月で頰舌的幅が平均 3〜4 mm、垂直方向も 1〜2 mm減少するとされ、特に薄い外側皮質骨はスポンジのように急速に痩せていきます。この変化は痛みを伴わず静かに進むため、自覚症状が出た時には骨の厚みが半分以下というケースも珍しくありません。骨量が減ると歯肉も支持を失い、口元はわずかに内側へ落ち込み、シワが深くなるなど審美面でも影響が現れます。

入れ歯が合わなくなるスパイラル

顎堤吸収が続くと、総義歯・部分義歯ともに土手となる支台骨の高さが低くなり、吸着力が急激に低下します。合わなくなった義歯は咀嚼時に前後左右へ揺れ、粘膜に点状圧を集中させるため潰瘍や痛みの原因に。

患者は痛みを避けて義歯を外す時間が増え、その間は骨への咬合刺激がゼロになるため、さらに吸収が進行—まさに“骨が痩せ→義歯が揺れ→外す→骨が痩せる”負のループです。義歯安定剤で一時的にズレを補正しても、粘膜面の厚いペーストがクッションとなり微細運動を助長しやすく、長期的には吸収速度を加速させる恐れがあります。

補修材を重ねて誤魔化すより、骨吸収の程度をレントゲンやCTで評価し、早期に裏装・再製・インプラントオーバーデンチャー等へ切り替える方が、顎堤の残存量を守る近道です。

将来のインプラント適応範囲が狭まる危険

インプラント治療は十分な骨幅と骨高があってこそ成立します。抜歯後の吸収が進んだ顎堤は幅 4 mm 未満、高さ 7 mm 未満になることもあり、標準径インプラント(直径 4 mm、長さ 10 mm)を安全に埋入できません。

この場合GBR(骨造成)やサイナスリフトが必要となり、治療期間は6〜12か月延び、費用も数十万円単位で上乗せされます。さらに重度吸収に伴い下顎管や上顎洞との距離が縮まると、神経・粘膜穿孔リスクが高まり、外科的難度と合併症リスクが一気に跳ね上がります。

“骨が残っているうちにインプラントを検討する”ことが王道ですが、吸収が始まってからの時間が長いほど選択肢は狭まり、最終的に極細ミニインプラントや磁性アタッチメント義歯など妥協的治療しか選べない可能性も。

歯を失ってから「いつかインプラントで…」と悠長に構えるのは禁物で、失歯後3〜6か月の骨が安定する前の時期に補綴計画を立てることが、将来の治療自由度と審美・機能の質を保つ鍵となります。

見た目年齢+10歳?フェイスライン崩壊の真実

口角下垂とほうれい線の深刻化

歯が抜けると咬合高径(上下の噛み合わせで決まる顔の縦寸法)が数ミリ短くなります。わずか 2 mm の低下でも下顎は関節頭ごとわずかに後上方へ回旋し、口輪筋・頰骨筋の張力バランスが崩壊。結果、上唇の支持が失われ口角が下垂し、ほうれい線は影が深くなり実年齢より 5~10 歳老けて見えます。

さらに失歯側で咀嚼回数が減ると咬筋・口輪筋の筋力がアンバランスに萎縮し、顔面左右差が顕著に。筋活動量の少ない側の脂肪パッドは重力に負けて下垂しやすく、マリオネットラインが早期に出現する原因になります。アンチエイジング化粧品で皮膚表層を整えても、骨格支柱が崩れている限りリフトアップ効果は限定的で、“エステ前に歯の補綴”という発想転換が必要です。

頬のボリュームロスと“老け顔”印象

失った歯根が刺激していた歯槽骨とそれを覆う歯肉は、半年で平均 25 % の体積を失います。頬側骨の吸収と歯肉の菲薄化は軟組織を内側へ引き込み、口元に⟨くぼみ⟩と影を形成。加えて奥歯の欠損で咬筋・側頭筋の活動が減ると、筋肉量が低下して頬のボリュームを支えきれず、いわゆる“バッカルファット下垂”が加速します。

形成外科領域では、抜歯放置 3 年以上の患者は同年代健全者に比べ頬前面の皮下脂肪厚が 15 % 薄いという報告もあり、インプラントやブリッジで咬合支持を回復した群では2年で筋厚と皮膚弾性が有意に改善しました。つまり美容医療のリフトアップやヒアルロン酸注入を検討する前段階として、失歯補綴で骨と筋の土台を復元することが、長期的な若見え投資となります。

発音障害がもたらすコミュニケーション低下

前歯部を失うと[f][v][s][z]など摩擦音の破擦が不明瞭になり、奥歯欠損でも口腔容積が変わり[k][g]など軟口蓋音の共鳴が乱れます。日本語は比較的歯接触を使わない言語ですが、それでも微妙な子音の不鮮明さは電話応対やプレゼンで「聞き返される」ストレスを増大させ、対人場面での自己効力感を低下させます。

社会心理学の調査では、滑舌不良を自覚する中高年は“会話を避けがち→笑顔減少→顔面筋活動低下→余計に口角が下がる”という負のループに陥りやすいとの結果が。補綴治療で発音を回復すると、会話頻度増加で表情筋トレーニング効果が得られ、無表情じわの進行が遅れることも示唆されています。

つまり失歯放置は見た目だけでなく“声年齢”も引き上げる要因。若々しいコミュニケーションを保つには、歯の欠損を早期に埋めて口腔容積と舌位置を正常化することが不可欠です。

残った歯の寿命を縮める “局所過重負担”

偏側咀嚼が起こすエナメル亀裂

抜けた歯を補わずにいると、自然と噛みやすい側だけで咀嚼する「偏側咀嚼」が習慣化します。東京都歯科医師会の調査では、片側6本以上の欠損を放置したケースで、反対側の平均咀嚼回数が 1.7 倍に増加。咬合力は通常 20~30 kg/歯ですが、偏側咀嚼では 40 kg/歯を超えるピーク荷重が生じ、エナメル質には本来の靭性を超えたせん断応力がかかります。

この応力はまずエナメル小柱の走行に沿って微細な“シグザグ亀裂”を作り、口腔内の湿潤環境で亀裂端からタンパク質が侵入してグリコサミノグリカン層を膨潤させ、亀裂を内部から押し広げます。その結果、わずか数ヶ月で亀裂は象牙質接合面に到達し、温度負荷や咀嚼衝撃によりパッチンと破折――いわゆる「歯冠破折」へと進行します。破折線が歯肉縁下に及ぶと補修は困難となり、結局さらに抜歯が必要になる“欠損の連鎖”を招くのです。

ブラキシズム誘発で歯根破折リスク上昇

噛み合わせのバランスが崩れると顎位センサーが不安定になり、夜間の歯ぎしり・食いしばり(ブラキシズム)が誘発されやすいことが知られています。筋電図研究によると、奥歯欠損者は睡眠中の咬筋放電回数が健常者の約 2.3 倍、ピーク電位も 1.6 倍に達し、上下歯列が一度接触するたびに瞬間最大 600 N を超える力がかかることも珍しくありません。

天然歯はエナメル質と象牙質の複合構造で衝撃を逃がしますが、短時間に繰り返される高荷重は疲労破壊を加速させ、歯根破折や補綴物破損を引き起こします。特に根管治療済みの失活歯は象牙質が乾燥脆弱化し、わずかなマイクロクラックがたった数ヶ月で完全破折に至るケースも。歯根破折は抜歯適応になることが多く、“欠損放置→ブラキシズム→残存歯破折→さらに欠損”という負の連鎖を断ち切るには、早期に咬合支持を回復し、マウスピースなどで咬合力を分散する対策が急務です。

歯周ポケット一気に悪化のメカニズム

局所過重は歯根周囲の歯槽骨にもダメージを与えます。偏咀嚼側では歯根膜に慢性的な圧縮力が加わり、血管の虚血と破骨細胞活性化が生じ、わずか半年で歯槽硬線の吸収像がレントゲンに現れることがあります。さらに、噛む力で歯が微小動揺すると歯周ポケット内に陰圧が生じ、嫌気性菌の棲みかとなるデブリが一気に吸い込まれます。

歯周病関連サイトカイン IL‑1β・TNF‑α は骨代謝を破壊的に促進し、2 mm だったポケットが 12 か月で6 mm に急深化する例も報告されています。これら進行は自覚症状に乏しく、気づいた時には「歯がグラつく」「隙間が広がった」という段階──すなわち保存治療では間に合わない状態。欠損補綴を先延ばしにすると、残った歯の歯周支持組織ごと短期間で崩壊し、部分義歯やインプラントを含む大規模な再建が必要になる確率が飛躍的に高まります。

全身疾患ともリンク!糖尿病・心疾患のリスクファクター

炎症性サイトカインとインスリン抵抗性

歯が抜けたまま咀嚼機能が低下すると、十分に砕けていない食塊が腸に届き、腸内細菌叢のバランスが悪玉菌優位に傾きます。悪玉菌はリポ多糖(LPS)を放出し、これが腸粘膜の透過性を高めながら血中へ移行。血管内に入った LPS は全身のマクロファージを活性化し、炎症性サイトカイン(IL‑6、TNF‑α)を持続的に放出させます。

IL‑6 や TNF‑α はインスリン受容体基質のリン酸化経路を阻害し、筋肉・肝臓・脂肪細胞で糖の取り込みを低下させるため、空腹時血糖と HbA1c が緩やかに上昇。欠損放置者の血糖コントロールは健全咬合者に比べ悪化しやすいという国内データも示されています。ここに高糖質の柔らか食偏重が重なると、食後血糖スパイクを繰り返す“隠れ糖尿病”状態に拍車がかかり、抜けた歯から遠く離れたすい臓 β 細胞にまで負担をかける結果となります。

咀嚼機能低下と血管内皮障害

よく噛む行為には唾液に富む一酸化窒素前駆物質(硝酸塩)を増やし、胃腸で一酸化窒素(NO)へ還元して血管拡張を促す生理作用があります。しかし欠損放置で咀嚼回数が減ると NO 産生が落ち、血管内皮依存性弛緩反応が低下。そこへ前述のサイトカイン負荷が加わると内皮細胞は酸化ストレスで機能不全に陥り、LDL が酸化変性しやすい環境が整います。

結果、プラーク形成速度が上がり、頸動脈 IMT(内膜中膜肥厚)は同年代健常者と比べ厚みが増す傾向が指摘されています。こうしたプロセスは無症候のまま進行するため、歯列の崩壊を起点として心筋梗塞・脳梗塞リスクが静かに高まる“サイレントチェンジ”を見逃しやすい点が問題です。補綴治療で咬合支持を回復し咀嚼回数が増えると、数か月で唾液 NO 代謝が改善し、末梢血管内皮機能(FMD値)が有意に上昇した報告もあり、口腔機能維持が循環器リスク低減に直結することを裏付けています。

誤嚥性肺炎を招く口腔機能低下症

欠損による咬合崩壊は舌・口唇・頬の協調運動を阻害し、食塊形成と送り込みが不完全になることで嚥下反射のタイミングが乱れます。高齢者ではこれが咳反射の遅延と組み合わさり、嚥下前吸引が起こりやすくなります。

さらに、噛めないことで唾液自浄作用が低下し、歯周病菌や口腔レジオネラがプラーク内で増殖。これらを含む微少誤嚥は肺に到達すると易感染環境を作り出し、誤嚥性肺炎を発症させます。厚生労働省の調査でも、残存歯数が少ない高齢者ほど肺炎死亡率が高い相関が示されており、欠損補綴による咬合回復と定期的な専門クリーニングが誤嚥性肺炎の一次予防に有効とされています。

言い換えれば、抜けた歯を放置することは単に“噛めない不便”に留まらず、呼吸器系にまで影響を及ぼす全身リスクを引き寄せる行為なのです。

入れ歯・ブリッジ・インプラント ― 治療選択肢の比較

早期補綴で得られる“骨保存”メリット

抜歯後 3〜6 ヵ月で歯槽骨幅は平均 3 mm、12 ヵ月で最大 50 %痩せると言われます。その前に補綴物を装着すると、咬合刺激が骨に再び伝わりリモデリングが維持されるため、吸収速度を 30〜40 %抑制できるのが大きな利点です。

とくにインプラントは歯根の代替となり咬合荷重を垂直に受けるため“直接骨保存型”、固定式ブリッジは支台歯を介して荷重を分散する“間接骨保存型”として機能します。一方、口蓋や頰粘膜で支える可撤式入れ歯は骨への荷重伝達が弱く、裏装材がクッションとなるため骨保存効果は限定的ですが、失った歯数が多い症例では咬合高径を早期に回復し口腔周囲筋を再教育できる点で価値があります。

いずれの方法でも“抜歯創が治り切る前にスペースを塞ぐ”ことが骨保存の鍵であり、補綴タイミングの先延ばしは将来の治療自由度を奪う最大のデメリットです。

生活スタイル別適応フローチャート

治療法選択は単に「金額差」だけでなく、ライフスタイル・全身状態・清掃習慣を総合評価して決定するのがベストです。

  • 糖尿病や骨粗鬆症で外科リスクが高い場合:可撤式入れ歯またはブリッジ
  • 肉体労働やスポーツで衝撃が多い人:インプラントまたはフルジルコニアブリッジ
  • 出張・旅行が多くメンテナンスが空きがちな人:着脱式入れ歯
  • 在宅ワーク中心で定期通院が可能な人:インプラント
  • ブラキシズム傾向(歯ぎしり・食いしばり)がある人:バイトプレート併用+固定式補綴

こうした“生活スタイル検索ツリー”で条件を絞り込み、最後に費用・治療期間・外科侵襲の3軸を並べて本人が納得できるプランを確立することが、補綴満足度を左右します。

メンテナンス費用と寿命のリアル

初期費用は 入れ歯<ブリッジ<インプラント の順ですが、10 年スパンで見るとメンテナンスコストが逆転する場合があります。

  • 保険入れ歯: 5年ごとに再製や金属床アップグレード、10年総額約15〜20万円
  • ブリッジ: 支台歯のトラブルで再製が必要になるケースが多く、10年総額約40万円前後
  • インプラント: 初期費用35〜40万円だが、10年で再治療率が低く、トータル約45万円に収まるケースも

すべての補綴で3〜6ヶ月ごとのメンテナンスは必要ですが、入れ歯は粘膜清掃が頻繁に必要で通院頻度が高くなる傾向があります。

費用だけでなく、壊れにくさ・通院頻度・残存歯への負担という視点で選ぶことで、長期的に満足できる治療法を見つけやすくなります。

治療先延ばしは家計を圧迫する“コスト膨張”の罠

放置1年ごとに増える追加治療項目

欠損を放置すると、「補綴+隣接歯治療+骨造成」という“足し算治療”が避けられなくなります。たとえば奥歯を1本失った直後にインプラントを検討すれば、処置範囲は埋入手術とクラウン装着のみ。
しかし1年放置すると隣在歯の傾斜で咬合干渉が起こり、咬合調整やレジン修復が追加。
2年で挺出した対合歯を削合する必要が生じ、咬合平面再構築のためにモックアップ作成と咬合スプリントが加わります。
3年経つ頃には骨幅が不足し GBR(骨造成)が必須となり、サイナスリフトやブロック骨移植で外科費用が一気に跳ね上がる――これが典型的な“治療先延ばし年表”です。
結果的に初期介入と比べ総治療費が 1.5〜2 倍、通院回数が 3 倍に膨らむケースも珍しくありません。

保険適用内で済んだはずの処置が自費へ

抜歯直後なら保険ブリッジ(硬質レジン前装冠+金銀パラジウム合金)で対応できた症例でも、放置期間中に隣接歯が動揺・う蝕・根尖病変を起こすと支台能力が不足し、ブリッジ設計そのものが不適応となる場合があります。
このときインプラントかシリコーン裏装義歯など自費補綴へ切り替えると、保険3割負担で 1.5 万円程度だった予定費用が一気に 30 万円超へ。
さらに骨造成や軟組織移植が追加されると、自費総額が 50〜80 万円規模へ拡大します。
つまり“治療費を節約しようと先延ばし”した結果、かえって高額治療しか選べない状況へ追い込まれる――これがコスト膨張の核心です。

受診回数・通院時間の累積コスト試算

経済的負担は治療費だけではなく、時間コストと機会損失も含めて考える必要があります。
初期インプラント(骨造成なし)の平均通院回数は診断・手術・補綴合わせて6回、総通院時間は約 10 時間
一方、欠損放置3年以上で骨造成+フルジルコニアクラウンが必要になった場合、通院は術前検査・骨造成手術・治癒観察・二次手術・印象採得・上部装着など計 12〜14 回、通院時間は 25 時間超
時給 2,000 円換算の機会損失で見ると初期介入は2万円、放置後は5万円を超え、交通費も含めれば差はさらに拡大します。
加えて、痛みや腫れによる仕事・家事効率低下を含めれば“隠れコスト”は想像以上。
早期補綴は治療費だけでなく時間と労力も節約する最良の投資と言えるのです。

よくある質問Q&A ― 抜けたままで大丈夫?への回答集

Q. 「1本くらいなら問題ない?」

結論から言えば “問題大あり” です。欠損部の隣接歯は平均で年間 0.1 mm 傾き5 年で歯間に 0.5 mm の隙間が生じます。そこへ食片が詰まるとプラーク pH が酸性側に滞留し、二次虫歯や歯周炎を招きます。

さらに対合歯は 0.2〜0.3 mm/年挺出し、3 mm を超えると咬合干渉が発生し、補綴前に対合歯削合や矯正が必要となるケースも。顎関節にもアンバランスなストレスが加わり、開口時のクリック音や肩こりを引き起こすリスクが高まります。

つまり「1本くらい放置」は、隣在歯・対合歯・顎関節という3方向へダメージを波及させ、最終的には複数歯の追加治療を余儀なくされる“高コスト選択”になりかねません。

Q. 「差し歯とブリッジの違いは?」

差し歯歯根が残存している場合に、根管治療後ポスト(土台)を立てて単独で被せ物を装着する方法です。自費セラミックなら審美性・耐久性とも高く、隣在歯を削る必要がありません

ブリッジ欠損部の両隣を支台歯として削合し、連結冠で空隙をまたぐ補綴法。固定式で装着感に優れ咬合力も高い一方、健康な支台歯を削る侵襲が生じ、支台歯にトラブルが起きるとブリッジ全体を再製する必要があります。

費用の目安は以下の通り:

  • 保険ブリッジ:1歯欠損で1.5〜2 万円
  • 自費セラミックブリッジ:20 万円前後
  • 差し歯(保険):5〜8 千円
  • 差し歯(自費):8〜12 万円

歯根の有無・支台歯の状態・審美性の希望を考慮して選ぶことが大切です。

Q. 「高齢でもインプラントは可能?」

インプラント成功率は年齢よりも全身状態と骨量が重要です。国内研究によると、

  • 70 代のインプラント10年生存率:94%
  • 80 代でも:91%

禁忌となるのは、

  • 重度心疾患
  • 未管理の糖尿病
  • 骨粗鬆症薬の長期静注治療

など限られたケースで、多くの高齢者でインプラント適応は可能です。

骨量不足があっても GBRやショートインプラントで対応でき、入れ歯に比べて咀嚼効率を2倍以上回復し、誤嚥性肺炎のリスクを低減する報告もあります。
手術は 局所麻酔のみで30〜60分、入院不要、術後は1週間程度で通常食に復帰できることも。

年だから無理」と諦めず、CTや血液検査など全身状態を把握したうえで計画的に進めることで、安全かつ高機能な咬合回復が可能です。

抜けた歯を放置しないための“アクションプラン”

失歯後1ヵ月以内の精密検査ガイド

抜歯創は2〜3週間で粘膜上皮に覆われますが、骨内部の治癒は始まったばかり。この“骨が軟らかい”時期こそ、補綴計画を立てるベストタイミングです。

まずデジタルパノラマで欠損部の解剖学的構造を把握し、CBCT(コーンビームCT)骨幅・骨高を0.1 mm単位で測定。さらに、咬合力解析シートにより左右荷重バランスを数値化し、顎関節のMRIまたは超音波で関節円板の偏位をスクリーニングします。

加えて血液検査ではHbA1c・ビタミンD・TRACP-5b(骨代謝マーカー)を測定し、全身状態と骨造成の可能性を評価。
これら多角的なデータに基づき、ブリッジ・義歯・インプラントの適応範囲を明確化し、費用・通院期間・メンテナンス内容を比較表で提示します。

仮歯→本補綴までのスケジューリング例

方針が決まったら骨吸収が始まる前にスペース保持を行います。抜歯直後または術後1週間以内に、テンポラリークラウンレジン床の暫間義歯を装着し、隣在歯の傾斜と対合歯の挺出を防止します。

仮歯期間中には咬合挙上や歯間幅の調整を行い、顎関節と筋肉の適応状況を観察。インプラント計画では6〜8週で一次手術を行い、必要に応じてGBR(骨造成)を同時に実施。術後3〜4ヶ月の治癒期間を経て、二次手術・型採り・上部構造装着という流れが標準です。

ブリッジは支台歯形成から装着まで2〜3週間金属床義歯4〜5週間が目安。重要なのは、“検査から補綴完了まで6ヵ月以内”を目標に、ガントチャート化して歯科医・技工士・患者で共有し、治療の先延ばしを防ぐことです。

長期安定を支えるセルフケアと定期検診ルール

補綴治療はゴールではなくスタート
毎晩のケアでは電動ブラシ+歯間ブラシを併用し、補綴マージンのプラークコントロール率をO’Leary指標 10%未満に維持。
さらに、0.1%フッ化第一スズ洗口液で虫歯リスクを抑え、インターデンタルチップで補綴物周囲のバイオフィルムを確実に除去します。

食習慣では以下の3つのルールを徹底しましょう:

  • 1口30回以上咀嚼
  • 間食は1日1回以内
  • 就寝前2時間は無糖飲料のみ

定期検診3ヶ月ごとにクリーニング+レーザー蛍光チェック12ヶ月ごとにデジタルX線比較を行います。
インプラントの場合はポケット深度・ISQ値の測定もルーチン化し、経過をクラウド歯科アプリで記録・共有します。

アプリでリスクスコアに応じたアラートを自動通知することで、“問題が起きてから”ではなく“リスクが上昇した時点での介入”が可能になります。
この先制型メンテナンスこそが、補綴物の長寿命化と患者満足度の最大化に直結するのです。

監修:広尾麻布歯科
所在地〒:東京都渋谷区広尾5-13-6 1階
電話番号☎:03-5422-6868

*監修者
広尾麻布歯科
ドクター 安達 英一
*出身大学
日本大学歯学部
*経歴
日本大学歯学部付属歯科病院 勤務
東京都式根島歯科診療所 勤務
長崎県澤本歯科医院 勤務
医療法人社団東杏会丸ビル歯科 勤務

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