歯がグラグラするのは歯周病かも?症状別に見る危険サインとは - 広尾麻布歯科
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2025.04.25

歯がグラグラするのは歯周病かも?症状別に見る危険サインとは

目次

歯がぐらつくのは異常?まず知っておきたい基礎知識

健康な歯でも多少は動く?正常な“遊び”と異常の違い

歯が少し揺れているように感じたとき、「これは異常なのか」と不安になる方も多いと思います。実は、健康な歯であってもわずかに動く“遊び”は正常な生理現象です。歯は顎の骨に直接埋まっているわけではなく、歯根膜という繊維性の組織によってクッションのように支えられています。この歯根膜があるおかげで、噛んだときの圧力を吸収し、歯に過度な負担がかからないようになっているのです。

しかし、その動きはごくわずかで、通常は意識しない程度。日常的に「グラグラしている」と感じる場合や、舌や指で触れて明らかに揺れを感じるようであれば、それは正常範囲を超えた“歯の動揺”であり、何らかの異常が疑われます。そのまま放置してしまうと、思わぬトラブルに発展することもあるため、違和感を覚えた時点で専門的な評価を受けることが大切です。

「噛んだときに違和感がある」は初期のサイン

歯の異常は、初期段階では「噛んだときの違和感」というかたちで現れることがよくあります。たとえば、食事中に「なんとなく当たり方が変わった」「歯が浮いているような感じがする」「片側だけしっくりこない」といった感覚は、実は歯周病の初期や噛み合わせの乱れが原因になっていることがあります。

このような症状は、歯がグラグラする前段階として非常に重要なサインです。違和感の原因はさまざまですが、歯周組織の炎症が始まっていたり、歯を支える骨が徐々に吸収されてきている兆候である可能性もあるため、見逃すべきではありません。自覚症状が軽いからといって油断していると、気づかないうちに症状が進行してしまう恐れがあります。

また、違和感の原因が一時的なもの(歯ぎしりによる負担など)であれば、早期の対応によって症状を改善し、歯の寿命を守ることが可能です。したがって、「少しおかしい」と感じた時点で歯科医院に相談することは、歯のぐらつきへの“予防的な第一歩”ともいえるでしょう。

放置すると進行する可能性があるため早期対応が重要

歯のぐらつきが軽度のうちは「そのうち治るかも」「まだ大丈夫」と様子を見たくなる気持ちも理解できますが、その放置が将来的な歯の喪失につながることも少なくありません。特に、歯周病が原因である場合は、見た目には大きな変化がないまま進行してしまい、最終的には歯を支える骨(歯槽骨)が大きく吸収され、歯の保存が困難になることもあります。

さらに怖いのは、ぐらついている歯があると、周囲の歯や噛み合わせにも悪影響が及ぶという点です。咬合のバランスが崩れ、結果として複数の歯に負担がかかり、連鎖的に歯のぐらつきが広がってしまうケースもあります。また、歯の動揺によって歯ぐきが炎症を起こしやすくなり、細菌が繁殖して口臭や出血といった新たなトラブルを招くことも。

だからこそ、「ちょっと揺れている気がする」「違和感がある」という初期段階での受診が、歯を守るために非常に重要です。歯科医院では、歯周ポケットの深さや動揺度、骨の状態などを丁寧に調べ、原因を明確にしたうえで、適切な対応を提案してくれます。早期の対処によって、歯を抜かずに済むケースは非常に多いのです。

歯のぐらつきの主な原因とは

歯周病による骨の吸収が引き起こす動揺

歯のぐらつきの最も一般的かつ深刻な原因は、歯周病によって歯を支える骨が溶けてしまうことです。歯周病は、プラーク(歯垢)内の細菌によって歯ぐきに炎症が起こり、やがて炎症が深部に及ぶと歯槽骨と呼ばれる顎の骨を溶かしてしまいます。支えを失った歯はしだいに不安定になり、動揺が目立つようになります。

歯周病による骨吸収は、自覚症状が少ないまま進行することが特徴です。歯ぐきが赤く腫れる、ブラッシング時に出血する、口臭が強くなるといったサインが見られた時点で、すでに骨が失われていることもあります。初期段階では動揺が軽度でも、進行すれば食事中に歯が痛む、浮いた感じがする、最悪の場合には自然に歯が抜け落ちるといった状態にまで至る可能性があります。

定期的な歯科検診で歯周病の進行をチェックすること、そして炎症の原因であるプラークや歯石をしっかり除去しておくことが、歯の動揺を防ぐために欠かせない基本的な予防策となります。

強い歯ぎしりや食いしばりによる力のダメージ

歯の動揺の原因は細菌性の病気だけではありません。実は、日常的に無意識で行っている歯ぎしりや食いしばりなどの強い力が、歯や歯周組織にダメージを与えて動揺を引き起こすことがあります。これらの癖は“ブラキシズム”と呼ばれ、特に睡眠中や集中しているときに起こりやすいとされています。

歯ぎしりの力は、1本の歯に対して非常に強い垂直・横方向のストレスを加えます。その結果、歯根膜や歯槽骨に過剰な圧がかかり、徐々に歯が動きやすくなったり、歯ぐきが下がったりすることも。さらに、歯ぎしりは歯の破折や摩耗を引き起こし、詰め物や被せ物の破損の原因にもなります。

このような力のダメージが慢性化すると、歯周病と組み合わさって動揺が進行するリスクが高くなります。歯科医院では、マウスピース(ナイトガード)の装着による予防や、噛み合わせの調整を通じた力のコントロールが有効な対策とされています。力の異常は、見逃されがちなぐらつきの原因のひとつとして注意が必要です。

怪我や外傷などによる一時的な動揺

歯の動揺は、外部からの衝撃によっても引き起こされることがあります。転倒やスポーツ中の事故、顔への強打などで歯に強い力がかかった場合、歯の根元の組織が損傷を受け、一時的に歯がグラグラと動くことがあります。このようなケースでは、歯の根や周囲の骨にヒビが入っている可能性もあるため、見た目に異常がなくても慎重な検査が必要です。

また、小さな衝撃であっても、もともと歯周組織が弱っている方や、歯周病を抱えている場合には、比較的軽微な外力でも大きな動揺につながることがあります。特にお子様や高齢者では転倒のリスクも高く、外傷が原因で歯が動きやすくなる傾向があります。

外傷による歯の動揺は、原因が明確である分、適切な処置をすれば元に戻る可能性も十分にあります。ただし、応急処置が遅れると歯の神経が壊死したり、感染を起こしたりすることがあるため、少しでも違和感があればすぐに歯科を受診しましょう。早期に固定を行うことで、歯の保存が可能になるケースも多くあります。

歯周病が進行するとどうなる?

歯ぐきからの出血・腫れが悪化のサイン

歯周病の初期段階で最もよく見られる症状が「歯ぐきからの出血」です。これは歯みがき中や食事中に歯ぐきに軽く触れただけで出血することが多く、一見すると大したことがないように感じられるかもしれません。しかし、出血は歯ぐきに炎症が起きている証拠であり、健康な歯ぐきでは通常出血することはありません。

炎症が進行すると、歯ぐきの腫れも顕著になってきます。赤くブヨブヨとした状態になり、触れると痛みや違和感を覚えることが増えていきます。この段階では、歯ぐきが歯にぴったりと付着している状態ではなくなり、隙間ができる「歯周ポケット」と呼ばれる状態になります。ここに細菌が溜まりやすくなり、さらに炎症が悪化するという悪循環が生まれるのです。

これらの変化は、歯ぐきのみにとどまらず、やがては歯を支えている骨(歯槽骨)にまで影響が及びます。つまり、出血や腫れは「歯がぐらつく前」の段階であり、早期の警告サインと考えて、軽視せずに歯科医院でのチェックを受けることが重要です。

歯を支える骨が溶けていくメカニズム

歯周病が進行していくと、歯ぐきの炎症が深部にまで到達し、歯槽骨という歯を支える骨を徐々に破壊していきます。この現象は「骨吸収」と呼ばれ、歯の土台が弱くなっていくことで歯がグラグラと動き始める原因となります。特に痛みが少ないまま進行するため、自分では気づかないことも多く、気づいたときにはかなり骨が失われているケースも珍しくありません。

炎症が強くなると、歯周ポケットはどんどん深くなり、通常2~3mm程度である歯周ポケットが、5mm以上に達するようになると重度歯周病と診断されることもあります。この深いポケットの中には酸素が届きにくくなり、嫌気性菌(酸素を嫌う細菌)が増殖しやすい環境が生まれ、さらに炎症が加速していきます。

また、骨が吸収されることで歯の根が露出し、知覚過敏や審美面での問題(歯が長く見えるなど)も生じてきます。歯が1本だけでなく複数本にわたってグラグラするようになった場合、顎全体の噛み合わせに影響し、日常生活にも支障をきたすようになります。

最終的には自然脱落する危険も

歯周病が重度にまで進行すると、最終的には歯を支える骨がほとんど失われ、歯が自力で立っていられなくなります。この状態になると、歯は極端に動揺し、食事中や会話中に強い不快感を伴うようになります。治療せずに放置すると、最悪の場合には歯が自然に抜け落ちてしまうこともあるのです。

しかも、歯を1本失うだけにとどまらず、空いたスペースに隣の歯が傾いてきたり、上下の歯が伸びてきたりして、噛み合わせのバランスが崩れてしまうという二次的な問題も引き起こします。また、動揺している歯があることで、しっかり噛めなくなり、消化機能の低下や栄養不足にもつながるおそれがあります。

さらに、歯周病は口腔内にとどまらず、糖尿病や心疾患、誤嚥性肺炎など、全身疾患との関連も報告されています。つまり、歯周病による歯の動揺を放置することは、単に「歯の問題」にとどまらず、「全身の健康リスク」にも直結するということを理解しておく必要があります。

早期であれば、歯周病は適切な治療とケアによって進行を食い止め、症状を改善することが可能です。動揺が起きる前の段階で気づき、適切な対処を取ることが、将来の歯の健康を守る大きなカギになります。

「1本だけ動く」は要注意?局所的な問題の見極め

噛み合わせのバランスが崩れているケース

「歯が1本だけグラグラする」というと、多くの方がその歯自体に原因があると考えがちです。しかし、実はその歯を取り巻く環境全体――特に噛み合わせ(咬合)のバランスの崩れが影響しているケースが少なくありません。

正常な噛み合わせでは、上下の歯が均等に接触し、力が分散される仕組みになっています。ところが、歯並びのズレや歯の欠損、古い被せ物の高さの不一致などによって、一部の歯に過剰な力が集中すると、その歯がダメージを受けて動揺し始めるのです。この現象は「咬合性外傷」と呼ばれ、歯周病がない人にも起こりうる、力による歯のぐらつきの代表例です。

また、噛み合わせの不調和は、慢性的な歯ぎしりや食いしばりを誘発することもあり、知らず知らずのうちに歯に無理な力がかかり続けるリスクも高まります。噛むと痛む、食事中に一部の歯に違和感がある、詰め物をした後から調子が悪いなどの症状がある場合は、早めの歯科相談が望ましいでしょう。

被せ物や詰め物の影響で歯が動く場合

補綴治療を受けた歯、つまり被せ物や詰め物が入っている歯がぐらついている場合、補綴物の不適合や劣化が動揺の原因になっている可能性があります。たとえば、被せ物が古くなってすき間ができてしまった場合、そこから細菌が侵入し、内部で虫歯や炎症が進行することがあります。すると、歯の構造が弱くなり、歯根や歯ぐきに影響が及び、ぐらつきが起こるのです。

また、詰め物や被せ物の高さがほんのわずかでも高すぎたり低すぎたりすると、噛み合わせのバランスが崩れ、その歯にだけ異常な力が加わってしまうこともあります。これは咬合調整で比較的早期に改善できる場合もありますが、放置していると歯根に負担がかかり、骨の吸収や根の破折など深刻なトラブルを招きかねません。

特に以前に神経を取った歯は、感覚が鈍くなっているため、過剰な力が加わっていても気づきにくいという落とし穴があります。一見安定して見える補綴歯であっても、「なんとなく当たりが強い」「噛むと違和感がある」といった小さなサインを見逃さないことが大切です。

根の病気(歯根破折・歯根嚢胞)による異常も

「1本だけグラグラする」という症状で、最も慎重に診断を要するのが歯根破折や歯根嚢胞など、歯の根に起きるトラブルです。歯根破折とは、歯の根の部分にヒビや割れが生じる状態で、特に神経を取った歯や、大きな力が加わった歯に起こりやすい現象です。初期には痛みや腫れがない場合も多く、症状としては「なんとなく動く」「違和感が続く」といった形で現れることが少なくありません。

歯根破折が進行すると、歯ぐきの腫れや膿の排出が見られるようになり、最終的には歯を保存できず抜歯が必要になることもあります。また、歯根の先に膿がたまる「歯根嚢胞」や「根尖病変」も、同様に歯を支える骨を溶かして動揺を引き起こす原因となります。

これらの病変は、外からは見えないため、レントゲンやCTによる画像診断が不可欠です。見た目に問題がなくても、歯の周囲に膿がたまっていたり、骨が吸収されていたりするケースがあるため、1本だけ動く歯がある場合は、必ず歯科医院での精密検査を受けることをおすすめします。

歯の動揺と一緒に起きる症状でわかる重症度

噛むと痛い・浮いた感じがする場合の注意点

歯のぐらつきとともに「噛むと痛い」「物が挟まると違和感がある」「浮いた感じがする」といった症状がある場合、歯周病が中等度〜重度に進行している可能性が高いと考えられます。歯が痛むのは、炎症が歯根膜や歯槽骨まで広がっており、噛むことでその部分に圧力がかかって刺激されているためです。

特に、「浮いた感じ」は、歯がわずかに動いて歯列から外れたポジションにある場合に感じる違和感で、噛み合わせがずれたり、片側の歯列だけに負担がかかったりしているサインでもあります。この症状が長く続くと、噛む位置が無意識に変わり、あごの筋肉や顎関節に負担がかかって、二次的に顎関節症を引き起こすこともあります。

噛んだときに鋭い痛みがある、食べ物が当たるとズキッとするという状態であれば、歯の根の感染や破折の可能性も考えられます。いずれにしても、動揺だけでなく「噛めない」「噛むとつらい」と感じた時点で、放置せずに早めに歯科で診断を受けることが非常に重要です。

歯ぐきから膿が出る・口臭が強くなる症状

歯がグラグラしているだけでなく、歯ぐきから膿が出る・口臭が気になるといった症状が伴う場合は、感染が相当進行しているサインです。膿の排出は、歯周ポケットの内部や歯根の先端に膿がたまり、体がそれを外へ押し出そうとすることで起こります。特に、押すと膿がにじむ、味が苦い、歯ぐきにニキビのような膨らみがあるといった場合は、根尖病変や歯周膿瘍の可能性が高くなります。

また、膿がある状態では、強い口臭が発生することが非常に多いです。これは、膿や壊死組織が分解される過程で発生するガスが原因であり、自分でも気づくほどのにおいになることも珍しくありません。さらに、膿の排出が不十分な場合には、炎症が拡大し、顔の腫れや発熱を引き起こすこともあります。

こうした症状があるときは、速やかな歯科処置(洗浄・排膿・抗菌薬の投与・根管治療など)が必要です。放置すれば歯の保存が難しくなるばかりか、顎骨炎や全身疾患のリスクも高まります。膿や口臭といった“見えない危険信号”こそ、見逃さないようにしましょう。

歯並びの変化や前歯の隙間が広がる進行サイン

歯の動揺が続くと、歯が少しずつ移動して歯並びに変化が現れることがあります。特に前歯の隙間が広がってきた、噛み合わせが変わったと感じる場合は、歯周病が進行し、歯を支える骨の支持力が低下している可能性があります。このような歯の移動は「フレアアウト」とも呼ばれ、主に前歯で起こりやすい現象です。

骨の支持が失われた歯は、口腔内の圧力や舌・唇の動きに逆らえなくなり、本来の位置から前方や横方向に傾いてしまいます。この結果、前歯が“ハの字”に開いたり、隙間が目立つようになったりと、見た目にも明らかな変化が生じることがあります。特に「最近、歯並びが変わった気がする」と感じた場合は、見た目の問題だけでなく、構造的に歯の保持力が低下している深刻なサインです。

また、歯が移動することで噛み合わせが変わり、一部の歯に過剰な力がかかってさらなる動揺を引き起こす悪循環が始まることもあります。こうした歯並びの変化は、一朝一夕で起こるものではなく、数ヶ月〜数年かけて徐々に進行するため、早期の発見が重要です。

歯の間に物が挟まりやすくなった、前歯で物が噛みにくくなったなどの“ささいな変化”も、歯周病が進んでいるサインかもしれません。見た目の変化は患者さん自身も気づきやすいため、日々のセルフチェックを習慣づけることが予防と早期発見につながります。

歯のぐらつきを放置すると起こるリスクとは?

歯の寿命が短くなる危険性

歯がぐらついている状態を「自然なこと」と思い込んで放置してしまうと、歯の寿命を大きく縮める結果になってしまう恐れがあります。歯がぐらつくのは、主に歯周組織(歯ぐきや歯を支える骨)に何らかの異常が起きているサインです。特に歯周病が進行している場合、歯を支える骨(歯槽骨)が徐々に溶けていき、最終的には歯の支えがなくなって抜けてしまいます。

この過程は痛みを感じにくく、気づかないうちに進行していることが多いため、動揺が軽度のうちに処置することが歯の寿命を延ばすカギとなります。逆に「様子を見よう」と放置することで、歯を失う可能性が高まり、結果的にインプラントや入れ歯といった補綴治療が必要になるケースも少なくありません。

1本の歯の喪失は、咬み合わせや全身の健康にも影響を及ぼします。だからこそ、歯のグラつきは“今そこにあるリスク”として受け止め、早めの対応を心がける必要があります。

隣の歯や咬み合わせへの悪影響

歯は1本ずつ独立して生えているように見えても、実際には隣り合う歯や上下の歯と連動しながら全体としてバランスを保っています。そのため、1本の歯がぐらついたり、抜けてしまったりすると、その周囲の歯にまで影響が波及していきます。

たとえば、1本の歯が動いて咬み合わせの高さが変わると、その周囲の歯にかかる力のバランスが崩れ、隣の歯まで徐々に動揺し始めることがあります。また、上下の歯の関係が狂うことで、かみ合わせがズレて「噛みにくい」「あごが疲れる」「音が鳴る」といった顎関節のトラブルを招くこともあります。

さらに、空いたスペースに隣接する歯が倒れ込んでしまう「傾斜」や、咬み合う歯が伸びてくる「挺出(ていしゅつ)」という現象も起こり、歯並び全体が不安定になる原因にもなります。こうした変化はドミノ倒しのように進行し、元に戻すには矯正や再補綴など、より複雑な治療が必要になることも。

つまり、1本の歯の動揺を見逃すことは、全体の噛み合わせバランスを崩し、口腔内全体の健康を損なう可能性があるということを認識しておくべきです。

噛む力のバランスが崩れ、顎関節症の原因にも

歯のぐらつきをそのままにしていると、噛む力の分散がうまくいかなくなり、特定の歯や筋肉に過剰な負担がかかるようになります。その結果として起こりやすいのが「顎関節症」です。これは、あごの関節やその周囲の筋肉に痛みや違和感、音が鳴るなどの症状が現れる疾患で、日常生活に大きな支障をきたすこともあるため注意が必要です。

ぐらつく歯をかばって噛む位置を変えてしまうと、左右の噛み合わせバランスが崩れ、あごの関節に負担が集中してしまいます。特に、もともと歯ぎしりや食いしばりの癖がある方では、この負荷が顕著に現れ、頭痛や肩こり、首の違和感といった全身症状へと広がることも。

また、噛む力が不安定になることで、食事の効率が落ち、胃腸に負担がかかることも見逃せないリスクです。よく噛めないことで食事が億劫になり、偏食や栄養不足に陥るという悪循環も考えられます。

歯が動いているだけで「食べられないほどではない」と思っても、体は確実にその影響を受けています。だからこそ、歯のぐらつきは「たかが1本」と見過ごさず、噛み合わせや顎の健康にも関わる全身の問題として捉える視点が大切です。

動いている歯を残すための治療とは?

歯周病の基本治療:スケーリング・SRP

動いている歯を救う第一歩は、歯周病に対する基本的な処置である「スケーリング」および「ルートプレーニング(SRP)」です。スケーリングでは、歯の表面や歯ぐきの中にある歯石を除去します。歯石は細菌の温床となり、炎症を引き起こす原因となるため、徹底的な清掃が求められます。

次のステップであるSRPでは、歯の根に付着したプラークや歯石を、器具を使って丁寧に削り取ります。この処置により、歯ぐきが歯に再び密着しやすくなり、歯周ポケットの深さを改善することが期待されます。これらの治療は保険適用で受けられるため、早期に歯科医院で対応すれば、歯の保存の可能性は十分に高まります。

重要なのは、これらの処置を一度きりで終わらせるのではなく、定期的なメンテナンスと患者自身の日々のセルフケアを組み合わせて行うこと。口腔内の環境を継続的に整えていくことが、歯の動揺を抑え、将来的な抜歯を避ける鍵となります。

動揺歯の固定(スプリント)処置

ある程度の歯の動揺が見られた場合、隣接する健康な歯と連結して、動いている歯を一時的に固定する「スプリント処置」が有効です。これは、特殊なワイヤーや繊維、樹脂などを使って複数の歯をつなぎ、ぐらつきを抑える処置です。特に前歯で行われることが多く、見た目に目立たない方法もあるため、審美的にも配慮された治療法といえます。

スプリント処置を行うことで、咬合力(噛む力)を均等に分散させ、動揺している歯にかかる負担を減らすことが可能となります。これにより、歯周組織の炎症が収まるまでの期間、歯を安定した状態に保つことができます。

ただし、固定処置は一時的な処置であり、根本的な原因である歯周病の治療や咬合調整などと併用することが前提です。また、固定によって歯間清掃がしづらくなるケースもあるため、歯科衛生士による指導のもと、適切な清掃方法を継続していくことが必要です。

再生療法や外科的アプローチが必要な場合も

歯周病が中〜重度に進行し、骨の吸収が著しい場合には、再生療法や外科的アプローチが求められることもあります。たとえば「GTR法(組織再生誘導法)」や「エムドゲイン療法」といった再生療法では、特殊な膜やタンパク質を用いて、失われた骨や歯周組織の再生を促すことが可能です。

これらの治療法は、適切な条件を満たした場合に限り高い効果が得られますが、術後のケアや感染予防が非常に重要であるため、患者側の協力も不可欠です。また、再生療法が難しいケースでは、歯ぐきを切開して歯石や感染組織を直接取り除く「フラップ手術」などの外科的処置が選択されることもあります。

さらに、咬合力が過剰にかかっている場合には、噛み合わせを調整することで歯の負担を減らし、回復しやすい環境を整えることも大切です。動揺している歯を“ただ固定する”のではなく、全体のバランスを整える視点が重要になります。

このように、歯の動揺に対しては保存を目指した多角的な治療アプローチが存在します。状態によっては、複数の方法を組み合わせることで、歯を抜かずに済む可能性が高まります。自己判断で諦めるのではなく、歯科医師と相談しながら最善の治療法を選択していくことが、歯を長く守るための第一歩です。

抜歯が避けられない場合の選択肢

ブリッジ・入れ歯・インプラントの比較

歯を保存できないと診断された場合、次に重要になるのが欠損部位をどのように補うかという「補綴治療」の選択です。主に「ブリッジ」「部分入れ歯」「インプラント」の3つが代表的な選択肢です。

ブリッジは、失った歯の両隣の歯を削って橋渡しするように人工歯を装着する方法で、比較的短期間で治療が完了し、保険が適用されるケースもあるため、費用面での負担が抑えられるというメリットがあります。ただし、健康な歯を削る必要があるため、将来的なリスクも考慮する必要があります。

部分入れ歯は、取り外し可能な装置で、複数の歯を補える反面、違和感を覚える方や食事・会話時の安定感に不安を感じるケースもあります。メンテナンスが容易であることや保険が適用されやすい点はメリットですが、噛む力や審美性の面では限界があります。

一方、インプラントは失った歯の部分に人工歯根を埋め込んで、機能性と審美性を高い水準で回復する治療法です。隣の歯を削る必要がなく、天然歯に近い噛み心地を得られるのが特徴ですが、保険適用外であるため費用は高額になりがちです。

患者さん一人ひとりの年齢、口腔状態、ライフスタイル、費用面の希望を総合的に考慮して、最適な補綴方法を選ぶことが大切です。

残せる歯と抜歯すべき歯の見極め方

「この歯は本当に抜くべきなのか?」という疑問を持つ患者さんは多くいらっしゃいます。実際のところ、歯を残すか抜くかの判断は、歯科医師の診断とともに、患者さんの希望や将来設計を含めた総合的な評価に基づいて行われます。

判断基準となるのは、歯根の状態(破折の有無、骨の吸収程度)、動揺度(歯のぐらつきの程度)、歯周ポケットの深さ、炎症の広がりなどです。これらの情報は、レントゲンやCTなどの画像診断、歯周ポケット測定、動揺度の判定などを組み合わせて評価します。

なかには「あと数年は持ちこたえられるかもしれない歯」や、「再生療法により保存できる可能性がある歯」もありますが、再治療を繰り返している、骨の支持が不十分、周囲への影響が懸念される場合などは、早めの抜歯を勧めることもあります。これは、他の健康な歯を守るという観点からも重要な判断となります。

つまり、1本の歯をどう扱うかは、その場限りの判断ではなく、「口腔全体の健康を長期的に守る」ための大局的な視点で決めるべきことなのです。

将来の噛み合わせを考慮した提案が重要

補綴治療の計画を立てるうえで非常に大切なのが、単に失った歯を補うのではなく、「今後どのように噛める口腔環境を維持するか」を見据えた設計です。1本抜けただけでも、上下左右の噛み合わせバランスが崩れ、他の歯への負担が増えることはよくあります。

たとえば、片側だけに力が偏ると、顎関節や筋肉に過剰な負荷がかかり、顎関節症や咀嚼障害を招くおそれがあります。また、反対側の歯列が挺出(伸びてくること)したり、隣接歯が傾斜したりすることで歯列全体の不調和が進行してしまいます。

そのため、補綴治療では咬合(こうごう)調整、歯列全体のバランス、患者さんの食習慣や生活スタイルに合わせた設計が求められます。インプラントを選ぶ場合も、1本単位ではなく、全体の咬合設計を行ったうえで、正確なポジショニングが必要になります。

歯科医院では、「今その歯をどうするか」だけでなく、「これから先もよく噛める状態をどう作るか」という視点から治療提案を行うことが、患者満足度と長期的な健康維持につながるのです。歯を失ったことをきっかけに、口腔全体を見直すチャンスととらえ、専門家とともに最適な選択を考えていきましょう。

歯の動揺に気づいたら、まずは歯科へ相談を

自己判断で放置せず、専門家のチェックを

歯のグラつきに気づいたとき、「まだ痛みがないから」「そのうち落ち着くかも」と様子を見る方は少なくありません。しかし、歯の動揺は、体が発している明らかな異常のサインです。痛みがない=問題がない、ではなく、むしろ痛みが出る頃にはかなり状態が悪化しているケースも多いのが現実です。

特に歯周病は、「サイレントディジーズ(静かな病気)」とも呼ばれ、自覚症状が少ないまま進行することが特徴です。グラつきを感じたときには、すでに歯を支える骨が吸収されていたり、歯ぐきの奥深くで炎症が広がっていたりすることも。自己判断での放置や市販薬での対処は根本的な解決にならず、かえって症状を見えにくくさせてしまうリスクがあります。

そのため、歯の動揺に気づいた時点で、一度専門家に相談し、適切な検査と診断を受けることが非常に重要です。早期の受診が、歯を守る最大のチャンスであることを、ぜひ覚えておいてください。

初期対応で歯を守れる可能性が高まる

歯のぐらつきが軽度の段階であれば、適切なケアと治療によって、歯を保存できる可能性が格段に高まります。たとえば歯周病が原因であれば、スケーリングやルートプレーニングといった基本的な歯周治療によって炎症が抑えられ、歯ぐきの健康が回復するケースは少なくありません。

また、咬み合わせの乱れや歯ぎしりによる力のかかりすぎが原因であれば、マウスピースの使用や噛み合わせ調整によって、歯にかかる負担を軽減することができます。さらには、動揺した歯を一時的に固定するスプリント処置など、保存を前提とした対処法がいくつも用意されています。

これらの初期対応は、歯が完全に動かなくなったり痛みが出たりしてからでは手遅れになることもあるため、「あれ?」と思ったタイミングこそが介入のベストタイミングです。歯は一度失ってしまうと、元に戻すことはできません。少しでも不安を感じたら、すぐに歯科医院へ相談する行動が、ご自身の未来の健康を大きく左右します。

「早めの受診」が将来の歯の健康を左右する

歯の健康を長く維持するために、もっとも重要なのは「早めの受診と予防的な管理」です。歯がグラグラしてからではなく、「あれ?おかしいな」と違和感を覚えたその瞬間に行動することが、結果として治療の負担も、費用も、そして失う歯の本数も最小限に抑えられることに繋がります。

また、定期検診を受けていれば、歯の動揺が起こる前の段階で歯周病の兆候や噛み合わせの乱れを把握でき、より的確なアドバイスとケアが受けられます。現在の歯科医療では、「悪くなってから治す」より「悪くならないように予防する」方が重視されており、これが歯を長く守る秘訣です。

特に、40代以降になると加齢や生活習慣によって歯周病のリスクが高まりやすくなります。将来、しっかり噛める歯を1本でも多く残すためには、「ちょっとの違和感を見逃さない」「すぐ相談する」という姿勢がとても大切です。あなたのその行動が、5年後、10年後の健康な食生活と自信ある笑顔を守ってくれることになるでしょう。

監修:広尾麻布歯科
所在地〒:東京都渋谷区広尾5-13-6 1階
電話番号☎:03-5422-6868

*監修者
広尾麻布歯科
ドクター 安達 英一
*出身大学
日本大学歯学部
*経歴
日本大学歯学部付属歯科病院 勤務
東京都式根島歯科診療所 勤務
長崎県澤本歯科医院 勤務
医療法人社団東杏会丸ビル歯科 勤務
愛育クリニック麻布歯科ユニット 開設
愛育幼稚園 校医
愛育養護学校 校医
・青山一丁目麻布歯科 開設
・区立西麻布保育園 園医
*所属
日本歯科医師会
東京都歯科医師会
東京都港区麻布赤坂歯科医師会
日本歯周病学会
日本小児歯科学会
日本歯科審美学会
日本口腔インプラント学会

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