歯ぐきが腫れやすいまま、矯正を始めようとしていませんか

出血・腫れを「体質だから」と放置していないか
歯磨きのたびに出血する、歯ぐきがなんとなく腫れぼったい感じが続く——そうした症状を「もともと歯ぐきが弱いから」と判断し、受診せずにいる方は少なくありません。しかし、歯ぐきからの出血は体質的な現象ではなく、歯肉に炎症が起きているサインである場合がほとんどです。
歯肉炎(しにくえん:歯ぐきの表層で起きる炎症)の段階であれば、適切なケアで改善できる可能性があります。一方、炎症が歯を支える深部の組織まで及んでいる歯周炎(ししゅうえん)へと移行していた場合、自己判断での対処には限界があります。出血や腫れを繰り返す状態が続いているなら、矯正を検討する前に歯ぐきの状態を評価することが、治療全体の安全につながります。
矯正中に歯周病が悪化したという声が絶えない理由
矯正を始めてから歯ぐきのトラブルが増えた、という経験を持つ方がいるのは事実です。矯正装置が口の中に入ると、歯と装置の隙間に食べかすやプラーク(歯垢)が溜まりやすくなり、ブラッシングだけでは取り除きにくい状況が生まれます。炎症を起こしやすい環境が慢性的に続くことで、もともと歯ぐきに問題がなかった患者さんでも歯肉炎が生じるケースがあります。
さらに問題になりやすいのは、矯正を始める時点ですでに歯周炎が潜在していたケースです。炎症がある組織に矯正力(歯を動かす力)が加わると、歯を支える骨(歯槽骨)への負担が増す場合があります。矯正の効果を最大限に発揮するためには、炎症がコントロールされた状態を土台として整えることが前提となります。
始める前に知っておくべきことがある
矯正治療は、健康な歯周組織を前提として設計された治療です。歯を計画的に動かすためには、歯ぐきと骨がその力を受け止められる状態であることが求められます。歯周炎が進行していると、矯正力に対して組織が適切に応答できず、治療の精度や予後に影響が出る場合があります。
「矯正を諦めなければいけない」という意味ではありません。歯周炎がある場合でも、炎症を十分にコントロールしてから矯正へ進む流れが選択肢として存在します。ただし、その判断には歯ぐきの状態を正確に把握するための評価が欠かせません。出血や腫れが気になりながらも矯正を検討しているなら、まず自分の歯ぐきが今どの段階にあるかを確認することが、治療の出発点になります。
成人矯正と歯周病が重なりやすい背景

30〜50代の歯ぐきが抱えやすいリスク
30〜50代になると、歯周組織(歯を取り囲む歯肉・骨・歯根膜などの構造全体)への長年の負荷が蓄積し、若い頃と比べて歯ぐきの状態が変化している方が少なくありません。加齢に伴い歯肉の厚みや弾力が低下しやすく、免疫応答のバランスも変化するため、歯周病菌に対する組織の抵抗力が弱まる傾向があります。
加えて、仕事や育児による慢性的なストレス、睡眠不足、食生活の乱れといった生活習慣の影響も、歯ぐきの炎症を慢性化させる一因とされています。ホルモンバランスが変動しやすい時期とも重なるため、歯肉の充血や腫れが起こりやすくなるケースも報告されています。矯正を始めようとする年齢層が、歯周病の発症・進行ピークとも重なりやすいという点は、治療開始前に意識しておく視点です。
歯周炎とはどのような状態か
歯周炎とは、歯と歯ぐきの境目に付いたプラーク(細菌の塊)の中に潜む歯周病菌への免疫反応が慢性的に続き、歯を支える骨(歯槽骨)や歯根膜まで炎症が波及した状態です。歯肉の赤みや腫れだけにとどまる「歯肉炎」とは異なり、歯槽骨の吸収が始まっている点が大きな違いです。
骨が吸収されると、歯周ポケット(歯と歯肉の間の溝)が深くなり、さらにプラークが蓄積しやすい環境が形成されます。この悪循環が続くと、歯の動揺(ぐらつき)が生じ、最終的には歯を失うリスクが高まります。歯周炎は「歯ぐきが腫れる病気」というより、「歯を支える土台が崩れていく病気」という理解が、実態に近いと言えるでしょう。
気づかないまま進行する「隠れ歯周病」の特徴
歯周炎が厄介なのは、痛みのサインが出にくいため、状態がかなり進行するまで自覚症状に乏しいケースが多い点です。歯磨きのたびに出血する、朝起きたときに口の中がネバつく、歯ぐきがムズムズするといった変化は、多くの方が「疲れたせい」「もともと出血しやすい体質」と解釈しがちです。
しかし、こうしたサインが慢性的に続いている場合、すでに歯肉の下で骨吸収が始まっている可能性があります。骨の変化はレントゲンや歯周ポケットの測定(プロービング検査)をしなければ把握できず、鏡で見ても判断できません。矯正を検討している方が「見た目は気にならないが、出血はよくある」と感じているなら、その状態を一度専門的に確認することが、治療計画を立てる上での出発点になります。
矯正中に歯周病が進行しやすい3つの理由

装置周辺にプラークが蓄積しやすいしくみ
矯正中に歯周病が悪化しやすい最大の要因は、装置がプラーク(歯垢)の温床になりやすい構造にあります。ブラケットやワイヤーなどの固定式装置は、歯の表面に複雑な凹凸をつくります。その隙間に食べかすや細菌の塊が入り込み、通常のブラッシングでは届かない部位が生まれやすくなります。
マウスピース型矯正装置の場合も、装置の縁と歯肉の境目付近に汚れがたまりやすい点は見落とされがちです。装置を装着したまま時間が経過すると、歯と装置の間が閉鎖的な環境になり、歯周病菌が増殖しやすい条件が整います。もともと歯肉に炎症が残っている状態で矯正を開始すると、プラーク管理の難易度がさらに上がり、炎症が深部へ波及するリスクが高まる場合があります。
歯に力がかかることで炎症が広がるリスク
矯正治療では歯を計画的に動かすため、歯根の周囲にある歯根膜(しこんまく:歯を骨につなぎとめる繊維組織)に持続的な力が加わります。この力は骨を吸収・新生させるプロセスを通じて歯を移動させるものですが、歯肉に既存の炎症がある状態では、このプロセスが歯周組織にとって余分な負担になる可能性があります。
炎症が起きている組織は血流や免疫応答が変化しており、矯正力による刺激が加わると歯槽骨(しそうこつ:歯を支える骨)の吸収が想定以上に進むケースがあることが知られています。健全な歯周組織では矯正力に対して適切な再構築が起こりますが、炎症が制御されていない状態では、その均衡が崩れやすくなります。矯正を安全に進めるには、力を加える前提として歯ぐきの炎症が落ち着いていることが求められます。
通院間隔が空くことで炎症管理が後回しになる問題
矯正治療中は、装置の調整や経過確認のために定期的に通院しますが、その間隔は数週間から1か月以上になることが一般的です。この期間中、歯周組織の状態がどう変化しているかは、患者さん自身では把握しにくいという現実があります。「出血があるけれど矯正の影響だろう」と判断を保留してしまい、気づいたときには炎症が進んでいたというケースは珍しくありません。
矯正の調整来院だけでは、歯周ポケット(歯と歯肉の間の溝)の深さや骨の状態を継続的に評価することは難しい面があります。歯周病の炎症管理を並行して行う体制がなければ、矯正中の口腔内の変化が見逃されやすくなります。矯正期間中も歯周の状態を定期的にモニタリングできる環境があるかどうかが、治療全体の安全性に関わってくると言えるでしょう。
歯科医が矯正前に確認する歯ぐきの判断基準

歯周ポケットの深さと骨吸収の程度
矯正を始める前に歯科医が最初に確認するのは、歯周ポケット(歯と歯肉の境目にある溝)の深さと、歯を支える骨(歯槽骨)がどの程度失われているかという2点です。健康な状態では歯周ポケットの深さは1〜3mm程度とされており、4mm以上になると歯周炎が疑われ、6mm以上では重度の状態と判断されることが多いです。
歯周ポケットの深さはプローブと呼ばれる細い器具で測定しますが、この数値だけで矯正の可否が決まるわけではありません。骨吸収の程度はレントゲンや歯科用CTで確認し、骨がどの範囲まで、どの深さまで吸収されているかを立体的に把握します。骨の支持力が著しく低下した歯に矯正力を加えると、歯の移動が予測から外れたり、ダメージが拡大するリスクが生じるため、この評価が矯正計画の前提となります。
出血・動揺・排膿が示すリスクの意味
歯周ポケットを測定する際に歯肉から出血が見られる場合、それは炎症が活動中であるサインです。健康な歯肉は器具が触れても出血しません。出血が確認された部位では免疫反応が継続しており、歯周組織が慢性的なダメージを受けている状態と考えられます。
歯の動揺(グラつき)は、歯槽骨の吸収が一定以上進行した結果として現れます。軽度の動揺であれば経過観察と治療の組み合わせで対処できる場合がありますが、複数の方向に動く場合は骨の支持力が相当失われている可能性があります。排膿(歯肉から膿が出る状態)は、ポケット内で細菌感染が深刻化していることを示しており、この状態では矯正力を加えることで炎症が広がりやすい環境になると考えられています。これら3つのサインは、矯正開始前の治療優先度を判断するうえで重要な手がかりになります。
炎症が安定していないと矯正を勧めない理由
歯周炎の炎症が残ったままの状態で矯正を開始しない理由は、矯正力と炎症が同時に歯周組織へ作用することで、骨吸収が加速するリスクがあるためです。矯正では歯根膜(歯と骨の間にあるクッション組織)に一定の圧力をかけることで骨を改築し、歯を動かします。この改築のしくみは、歯周組織が炎症なく安定した状態であることを前提としています。
炎症が続いている状態では、歯周病菌の毒素による骨吸収と、矯正力による骨改築が同時進行するかたちになります。このとき、骨を作る細胞よりも骨を吸収する細胞の活動が優位になる傾向があり、治療の意図とは異なる方向に歯周組織が変化するケースが報告されています。「矯正を早く始めたい」と感じる方も多いですが、歯ぐきの炎症を先に落ち着かせる段階を経ることが、矯正の予測精度と歯の長期的な安定につながる根拠がここにあります。
歯周炎がある状態でも矯正を目指せる条件と治療の流れ

矯正前に行う歯周病治療の目的と範囲
歯周炎が確認された場合でも、炎症を十分にコントロールした上で矯正を開始できるケースは少なくありません。矯正前の歯周病治療は、歯を動かすための「土台づくり」として位置づけられます。歯周組織に活発な炎症が残ったまま矯正力を加えると、骨吸収が加速するリスクがあるため、まず炎症の鎮静化を優先します。
具体的には、歯石・歯垢の徹底除去(スケーリング)や、歯周ポケット内の感染源を取り除く処置(ルートプレーニング)が中心となります。これらの処置を経て、歯周ポケットの深さや出血の状態が安定した段階で、改めて矯正開始の可否を判断するのが一般的な流れです。炎症が治まると歯肉の腫れも引くため、歯並びや噛み合わせの状態をより正確に評価できるという側面もあります。
歯周外科治療が必要になるケースの考え方
スケーリングやルートプレーニングだけでは炎症が改善しない場合、歯周外科治療が検討されることがあります。歯周ポケットが深く、器具が届きにくい部位に感染源が残っている状況がその典型です。こうした場合、歯肉を切開して歯根面の汚染を直接除去する歯肉剥離掻爬術(フラップ手術)が選択されることがあります。
歯周外科治療の目的は、単に炎症を抑えることだけではありません。プラーク(歯垢)が蓄積しにくい環境を整えることで、矯正中のセルフケアを現実的に維持できる状態をつくることも重要な目標の一つです。ただし、すべての患者さんが外科処置の対象になるわけではなく、歯周ポケットの深さや骨吸収の程度、日々の口腔ケアの状況などを踏まえた上で、適応を慎重に判断します。
矯正中の炎症管理をどのように継続するか
矯正を開始した後も、歯周組織の状態を継続的に確認する体制を維持することが、治療全体の予後を左右します。矯正装置が入ると清掃しにくい部位が増えるため、定期的なプロフェッショナルクリーニングと歯周組織のチェックを組み合わせた管理が求められます。
矯正中に歯周炎の兆候が再燃した場合、状況によっては矯正の進行を一時的に見直すことも選択肢に入ります。歯に力をかけ続けることと炎症の収束を同時に進めることは難しく、組織の状態が優先されます。担当する歯科衛生士が患者さんごとの口腔内の変化を継続的に把握し、矯正担当者と情報を共有できる診療体制であるかどうかが、矯正中の炎症管理の質に直接影響するといえるでしょう。
矯正と歯周病を同時に診られる医院を選ぶ視点

歯周病の精密検査と矯正相談を一括して行える体制
矯正と歯周病の両方に不安がある場合、それぞれを別々の医院で診てもらおうとすると、情報の共有が分断され、治療の優先順位が曖昧になりやすいという問題が生じます。歯周炎の状態を把握せずに矯正の計画が立てられた場合、矯正中に炎症が悪化しても気づかれにくくなる可能性があります。
そのため、矯正を検討する段階から歯周組織の評価を同じ医院で行える体制かどうかは、医院選びの重要な判断軸になります。具体的には、初診時に歯周ポケットの深さ・出血・骨の吸収状態を含めた精密検査を行い、その結果をもとに矯正の開始時期や前処置の必要性を一貫して判断できる環境が求められます。
歯周病の評価と矯正の相談を同一の医院で完結できると、炎症が安定した段階で矯正へ移行するタイミングを見極めやすく、治療全体の流れが患者さんにとっても把握しやすくなります。広尾麻布歯科では、初診時にレントゲン撮影・口腔内写真・歯周病検査・虫歯検査を行い、口腔全体の状態を把握したうえで治療計画を立てています。
矯正中のメインテナンスを担当衛生士が継続できるか
矯正中の歯周炎リスクを抑えるうえで、矯正装置をつけた状態での口腔内変化を継続的に観察できる体制があるかどうかは、見落とされがちな視点です。担当する衛生士が変わるたびに、前回との比較が難しくなり、炎症の微細な変化を見逃しやすくなります。
担当衛生士制度を採用している医院では、同じスタッフが患者さんの口腔内の経過を継続して把握するため、「先月と比べて出血が増えた」「この部位の歯肉が腫れ始めた」といった変化を早期に察知できます。矯正中のメインテナンスは単なるクリーニングではなく、炎症管理の一部として機能している点で意義があります。
広尾麻布歯科では担当衛生士制度を採用しており、患者さんごとの口腔内状態を継続的に管理する方針をとっています。矯正期間中に口腔環境の変化を追い続けることができる体制は、歯周病の既往や歯ぐきへの不安を抱えながら矯正を進める方にとって、治療の安心感につながる要素といえるでしょう。
歯周外科処置に対応できる診療範囲かどうか
矯正開始前の段階で、スケーリングやブラッシング指導だけでは炎症がコントロールしきれないと判断された場合、歯周外科処置が必要になるケースがあります。そのような状況に対応できる診療範囲を持つ医院かどうかは、事前に確認しておくべき点です。
歯周外科処置とは、歯肉を外科的に処置して歯周ポケットの深さを改善したり、歯石や感染組織を除去したりする治療です。代表的なものとして、歯肉剥離掻爬術(フラップ手術)や歯肉切除術があり、重度の炎症が残る部位への対処として検討されることがあります。これらの処置が院内で完結できると、外科処置後の経過確認から矯正への移行まで、同じチームが一貫して担当できます。
広尾麻布歯科では、歯周外科治療として歯肉剥離掻爬術・歯周ポケット掻爬術・歯肉切除術に対応しています。矯正前に必要な外科的処置を院内で行えることで、複数の医院をまたぐ手間が省けるだけでなく、処置の状況が矯正担当者にも共有されやすく、治療計画全体の整合性が取りやすくなります。
矯正と歯周病に関するよくある疑問

歯周病があると矯正はできないのか
歯周病があるからといって、矯正治療の選択肢が完全に閉ざされるわけではありません。炎症が活発な状態のまま矯正を開始することは避けるべきですが、歯周病治療によって炎症が落ち着き、歯を支える骨の状態が安定していると判断されれば、矯正へ進める可能性があります。
ただし、骨吸収がどの程度まで進んでいるかは、歯科用CTやレントゲンによる精密な診査なしには把握できません。「歯ぐきが気になるけど矯正できるか知りたい」と感じている方は、矯正相談の前段階として歯周病の評価を受けることが、判断の起点になります。炎症の有無と骨の残量を確認して初めて、矯正の可否や開始時期の見通しが立てられます。
マウスピース型矯正装置は歯ぐきに優しいのか
マウスピース型矯正装置(取り外しができる透明な装置)は、ワイヤー矯正と比較してプラークが溜まりにくい側面があります。食事や歯磨きの際に取り外せるため、装置を付けたままブラッシングを行う必要がなく、歯周病リスクの観点では有利な条件を持つ装置といえます。
一方で、装置を正しく取り扱わなければ装置内部の汚れが歯ぐきに接触し続けるリスクもあります。装着中は唾液の自浄作用が届きにくい環境になるため、装置の洗浄習慣とセルフケアの質が歯ぐきの状態を左右します。「マウスピースなら歯周病が悪化しない」という前提で進めるのではなく、炎症の有無を評価した上で装置の選択と管理方法を検討するのが、より現実的な考え方です。
矯正後に歯ぐきが下がったように見えるのはなぜか
矯正後に「歯が長くなった」「歯ぐきが引いた」と感じるケースは、歯周病による骨吸収が矯正前から存在していた場合に起こりやすいと考えられています。歯が動くことで、もともと薄くなっていた歯周組織が引き延ばされ、治療後に歯肉退縮(歯ぐきの後退)として現れることがあります。
矯正そのものが原因で骨が一気に溶けるわけではありませんが、炎症を抱えたまま力をかけ続けることで、既存の骨吸収が加速するリスクがあります。矯正後の歯ぐき退縮を防ぐためには、矯正開始前に骨の残量を把握し、炎症が安定しているかどうかを確認するプロセスが欠かせません。歯ぐきの変化は矯正後に初めて気づくことが多いですが、その背景は矯正を始める前の歯周組織の状態に関わっていることが少なくありません。
矯正前に自分の歯ぐきをセルフチェックする方法

歯ぐきの色・腫れ・出血で気づける初期サイン
健康な歯ぐきは薄いピンク色で、歯と歯の間の三角形の部分(歯間乳頭)が引き締まった状態です。これが赤みを帯びていたり、ぷっくりと丸みを帯びて見えたりする場合、歯肉に炎症が起きているサインである可能性があります。
腫れの程度は、鏡で正面から見るだけでは分かりにくいこともあります。指で軽く歯ぐきを触れてみたとき、健康な状態よりも柔らかくぶよぶよした感触がある場合は、内部に炎症が潜んでいることも考えられます。歯ぐきの色の変化は、歯周病の進行段階を外から観察できる数少ないサインの一つです。
また、歯ぐきが下がって以前より歯が長く見えるようになってきた場合は、骨の吸収がすでに起きている可能性があります。こうした変化は自覚症状が薄いまま進行するため、鏡で定期的に確認する習慣自体が、変化を早めにとらえることにつながります。
歯磨き後に血が出る頻度と受診の目安
歯磨き中・後に出血が見られる場合、それが週1〜2回程度の頻度であっても、歯肉炎(しにくえん:歯ぐきの炎症)が起きているサインとして見逃さない方がよい状態です。「たまに血が出る程度」という感覚は、習慣化することで感覚が麻痺しやすく、実際には炎症が継続している場合があります。
出血しやすい部位が奥歯の歯間や歯ぐきの縁に集中している場合、プラーク(歯垢)の除去が追いついていない可能性があります。歯ブラシだけでは届きにくい場所に炎症が起きていても、痛みは感じないことがほとんどです。
目安として、毎回ではなくても週に複数回出血が続く状態が2週間以上続く場合は、セルフケアを強化しても炎症が残っている可能性が高いと言えます。歯磨きを丁寧に行っても出血が止まらない状態は、歯科での状態確認を検討するきっかけとして捉えることができます。
セルフチェックの限界と精密検査が必要な理由
鏡や触感でのセルフチェックは、歯ぐきの表面の変化を観察する手段としては有効です。一方で、歯周病の進行度合いを左右する重要な情報——歯周ポケット(しゅうポケット:歯と歯ぐきの間の溝の深さ)や、歯を支える骨の吸収状態——は、自宅での確認では把握できません。
見た目や出血の有無だけでは、表面の炎症なのか、骨にまで影響が及んでいる状態なのかを区別することができないのです。「痛みがない」「見た目はそれほど腫れていない」という感覚があっても、歯周ポケットが4mm以上深くなっているケースは珍しくありません。
矯正を検討している段階でのセルフチェックは、「受診を判断するための最初の一歩」として位置づけるのが現実的です。歯周ポケットの測定や骨状態の確認は歯科での精密検査によって初めて可視化されるものであり、その結果をもとに矯正を始められる状態かどうかの判断が可能になります。
矯正開始前に受けるべき歯周病評価の内容

初診時に行われる歯周組織の検査項目
矯正前の歯周病評価では、歯周ポケットの深さ・出血の有無・歯肉の炎症程度・歯の動揺度を系統的に記録する「歯周組織検査」が中心になります。歯周ポケットとは、歯と歯肉の境目にできる溝のことで、健康な状態であれば1〜3mm程度に収まります。この溝が4mm以上になると、プラークが奥に蓄積しやすくなり、炎症が持続しやすい環境になります。
検査では専用の器具(プローブ)を使って全歯の複数個所を計測し、出血が起きるかどうかも同時に確認します。出血が起きた部位は、炎症が活発であることを示す指標の一つです。こうして得られたデータは、歯の一本一本の状態を「歯周組織の地図」として可視化するために使われ、矯正の開始可否や治療の優先順位を判断する根拠となります。
レントゲン・CTで確認できる骨の状態
歯周病の評価において、目で見える歯肉の状態だけでなく、歯を支える骨(歯槽骨:しそうこつ)の状態を把握することが欠かせません。歯槽骨の吸収は歯肉の腫れより早く進行するケースもあり、外見だけでは見抜けない変化が骨に起きていることがあります。パノラマレントゲンや歯科用CTを用いると、骨の高さ・密度・吸収パターンを3次元的に評価できます。
特に骨の吸収が局所的に深く進んでいる「垂直性骨欠損」と呼ばれる状態では、矯正の力が加わることで欠損部位への負担が集中しやすくなることがあります。こうした所見はレントゲン上で確認できるため、矯正前の画像診断は「歯ぐきに問題がなさそうでも実施する」検査として位置づけられています。撮影により、現時点での骨の状況と矯正への影響リスクをより具体的に把握できます。
評価結果をもとに矯正の開始時期を判断するプロセス
検査と画像診断で得られた情報をもとに、矯正を「いつ始めるか」を判断します。炎症の活動性が高い状態では、歯周病治療を優先し、炎症が落ち着いたことを再検査で確認してから矯正の計画に移るのが一般的な流れです。「歯周病が少しあっても矯正を早く始めたい」という気持ちは理解できますが、炎症が残ったままでは矯正中に状態が変化するリスクが否定できません。
開始時期の判断に明確な基準があるわけではなく、骨吸収の程度・炎症の範囲・患者さん自身のセルフケア能力なども総合的に加味されます。評価の結果によっては、スケーリング(歯石除去)などの基本的な歯周治療だけで安定し、比較的短い期間で矯正に移行できるケースもあります。一方、外科的な処置が必要と判断された場合はそれを先行させることになります。検査を受けることで「いま何が必要か」が明確になり、矯正のスタート地点が具体的に見えてくるでしょう。
歯ぐきが気になるなら、矯正の前に一度確かめませんか

この記事で整理できた重要な視点
矯正と歯周病は「別々に考えるもの」ではなく、開始前から一体で評価しなければ、矯正中に炎症が広がるリスクを見落とすことになります。この記事では、成人矯正に特有の歯周リスク、矯正中にプラークが蓄積しやすい構造的な理由、そして歯科医が矯正開始を判断する際に何を確認しているかを整理しました。
歯ぐきの出血や腫れを「たまにあること」として流してきた方にとって、最も重要なのは「自分の歯周組織の状態が矯正に耐えられるか」を客観的なデータとして把握することです。歯周ポケットの深さ、骨吸収の程度、炎症の安定度という3つの指標が、矯正開始のタイミングを左右します。セルフチェックで気になる点があれば、それは精密検査を受けるひとつのサインと考えられます。
歯周病と矯正を総合的に診る当院の診療姿勢
広尾麻布歯科では、矯正相談を希望される患者さんに対して、歯周組織の状態を含めた口腔全体の評価を行っています。初診時にはレントゲンや歯周病検査を実施し、骨の状態や炎症の有無を確認したうえで、矯正の開始時期や治療の順序について説明しています。歯周外科治療にも対応しており、炎症コントロールが必要なケースにも対処できる診療体制を整えています。
矯正中の炎症管理は、担当衛生士による継続的なメインテナンスによって支えられます。装置装着中の磨き残しやすい部位へのアプローチ、歯周ポケットの経過確認を定期的に行うことで、矯正の進行と歯ぐきの健康を並走させることを目指しています。歯周病の既往がある方が矯正を検討する際に、「矯正専門医に行けばよい」とだけ考えると、歯周管理の視点が抜け落ちる可能性があります。総合的な診療ができる環境で相談することが、治療全体の安全性につながります。
矯正を諦める前に、まず歯ぐきの状態を知るところから
「歯ぐきが弱いから、矯正は自分には向かないかもしれない」と考えて、相談自体をためらっている方は少なくありません。しかし、歯周炎があること自体が矯正の絶対的な障壁になるわけではなく、炎症を安定させたうえで矯正を進めるという段階的なアプローチが検討される場合があります。諦める前に、まず現在の歯ぐきの状態を正確に知ることが出発点です。
歯周病の精密検査と矯正相談を同じ医院で完結できる環境であれば、「歯周病は歯周病の先生、矯正は矯正の先生」と別々に受診するよりも、治療の方向性が統一されやすくなります。広尾麻布歯科では、歯ぐきの状態に不安を持ちながら矯正を検討されている患者さんのご相談に対応しています。現在の口腔状態を丁寧に確認したうえで、今後の治療の方向性を一緒に考えていくことができます。
監修:広尾麻布歯科
所在地〒:東京都渋谷区広尾5-13-6 1階
電話番号☎:03-5422-6868
*監修者
広尾麻布歯科
ドクター 安達 英一
*出身大学
日本大学歯学部
*経歴
・日本大学歯学部付属歯科病院 勤務
・東京都式根島歯科診療所 勤務
・長崎県澤本歯科医院 勤務
・医療法人社団東杏会丸ビル歯科 勤務
・愛育クリニック麻布歯科ユニット 開設
・愛育幼稚園 校医
・愛育養護学校 校医
・青山一丁目麻布歯科 開設
・区立西麻布保育園 園医
*所属
・日本歯科医師会
・東京都歯科医師会
・東京都港区麻布赤坂歯科医師会
・日本歯周病学会
・日本小児歯科学会
・日本歯科審美学会
・日本口腔インプラント学会
