1. 口臭のメカニズムを理解する

・揮発性硫黄化合物(VSC)の生成プロセス
口臭の主因としてもっとも注目されるのが、細菌代謝によって産生される揮発性硫黄化合物(VSC)です。VSCにはメチルメルカプタン、硫化水素、二硫化メチルなどが含まれ、その悪臭は腐った卵や生ゴミのように強烈です。
これらの化合物は、口腔内の嫌気性菌がたんぱく質の硫黄基を分解するときに発生します。
例えば、プラーク中のタンパク質が分解される際、アミノ酸の一種であるシステインやメチオニンから硫化水素やメチルメルカプタンが生成されます。
こうした反応は口腔内が酸素不足(嫌気的)になると加速し、深い歯周ポケットや舌の凹凸部分などは好発部位です。
VSCは揮発性が高いため、発生直後に気化して呼気や口腔から放散し、周囲に不快な臭いを漂わせます。
歯科では専用のガスクロマトグラフィー装置や硫黄化合物測定器を用いてVSC濃度を数値化し、「どの程度発生しているか」を診断することで、口臭治療の第一歩を踏み出します。
・細菌の発生源:プラークと舌苔
口腔内細菌の温床となるのが、歯の表面や歯根部に付着するプラーク(歯垢)、そして舌背部に付着する舌苔(ぜったい)です。
プラークは食後数時間で形成され、歯面にバイオフィルムという膜を作ります。
このバイオフィルムは細菌群が共生する構造体で、乾燥や唾液の洗い流し作用に強く、薬剤も浸透しにくい特徴があります。
歯磨きでプラークをしっかり落とさないと、歯周ポケット内で嫌気性菌が増殖し、VSC産生が増大します。
また、舌苔は舌表面の粘膜が剥離・剥落した細胞や食べかす、粘液と細菌が混ざって、舌背部に白黄色の苔状に堆積したものを指します。
特に舌の中央部や根元側の溝に入り込んだ舌苔は、水流や唾液が届きにくいため細菌が繁殖しやすく、強い臭いを発生させる原因となります。
日常のブラッシングでは舌はなかなか手入れできない部位ですが、舌クリーナーや舌ブラシを用い、前後に優しく引いて舌苔を除去することが有効です。
プラークも舌苔も、口臭予防の両輪としてクリアにすることが不可欠です。
・口腔内pHとバイオフィルムの関係
口腔内のpH環境は、細菌の種類や活動性を左右する重要な要因です。
通常、健康な口腔ではpH6.8~7.4の弱酸性から中性域に維持されていますが、食事や間食による糖分摂取でプラーク内の細菌が酸を産生すると、一時的にpHが5.5以下に低下します。
この酸性化は歯のエナメル質を脱灰しやすくなるのに加え、嫌気性菌の増殖を強力に促進します。
嫌気性菌は酸性環境でも生存でき、VSCを産生する能力が高いため、酸性の時間が長いほど口臭のリスクが増大します。
さらに、一度形成されたバイオフィルムはpHの上下動を緩衝し、内部はより強い嫌気環境を維持することで、細菌の温床としての性質を強めます。
歯周病原菌を含む多くの嫌気性菌はpH6.0~6.5程度の弱酸性域でピーク活動を示すため、食後の酸性化からの回復をいかに早めるかが鍵です。
唾液には重炭酸イオンが含まれ、酸を中和してpHを戻す緩衝能がありますが、ドライマウスや不適切なブラッシングで唾液分泌や洗浄が低下すると、この緩衝機能が弱まり、バイオフィルムが酸性環境を維持しやすくなります。
結果としてVSC産生が継続し、慢性的な口臭へと繋がります。
日常的にうがい・水分補給・歯磨きを行い、口腔内pHを中性へ素早く戻すことが、口臭抑制において非常に効果的です。
2. 歯周病が発生源に!歯周組織からの口臭

・歯周ポケットの深さと臭気の関係
歯周病が進行すると、歯と歯茎の境目に生じる歯周ポケットが深くなることが特徴です。
健康な歯肉ではポケットは1~2mm程度ですが、歯周病が進むと4mm以上に拡大し、7mmを超えると歯根面が大きく露出してしまいます。
このポケット内部は唾液の浄化作用が及びにくく、酸素が乏しい嫌気性環境となるため、嫌気性菌が好んで繁殖します。
代表的な口臭原因菌であるフソバクテリウムやトレポネーマなどは、歯周ポケット内でタンパク質を分解し、メチルメルカプタンや硫化水素などの悪臭を放つ揮発性硫黄化合物(VSC)を大量に産生します。
深いポケットほど酸素濃度が低く、バクテリアが活性化しやすいため、ポケット深度と口臭の強さには明確な相関があります。
実際、歯周ポケットが4~6mmの患者と比較して、7mm以上の深いポケットを持つ患者ではVSC濃度が約1.5倍高いという臨床データも報告されています。
したがって、ポケット測定は口臭ケアの第一歩。定期的に歯科医院でプローブを用いた深度測定を受け、深部に潜む細菌の存在を数値で把握することが、原因除去と口臭改善への近道です。
・歯肉炎 vs 歯周炎:症状と口臭リスク
口臭の発生源として歯周病は大きく二つの段階に分かれます。
まず、歯肉炎は歯肉に限局して炎症が起きる初期段階で、歯肉の赤みや腫れ、ブラッシング時の出血を特徴とします。
歯肉炎の段階でもプラーク中の細菌代謝による酸味やわずかな腐敗臭が発生しますが、ポケット深度は2~3mm程度に留まり、VSC産生は比較的軽度です。
適切なブラッシングとクリーニングで可逆的に治療可能なため、歯肉炎段階での口臭はセルフケアで改善できるケースが多いのが特徴です。
一方、歯周炎は歯肉炎が悪化して歯槽骨まで炎症が波及した状態で、ポケットが4mm以上に深くなり、歯の揺れや咬合痛を伴うこともあります。
歯周炎では嫌気性菌が大量に増殖し、組織の壊死組織や血液成分を栄養源としてVSCを大量生産。
口臭はより強烈で、息を吐くだけで腐敗臭が周囲に気づかれるレベルになることも少なくありません。
糖尿病や喫煙などのリスク因子がある場合、歯周炎の進行が加速し、口臭の原因も複雑化します。
歯肉炎と歯周炎では必要な対処法が異なるため、早期に炎症段階を見極め、適切な専門ケアを受けることが口臭根本治療には不可欠です。
・歯石・歯垢除去の重要性
プラーク(歯垢)は歯周病菌の温床ですが、長期間放置すると唾液中のカルシウムとリン酸が沈着し、歯石へと石灰化します。
歯石は歯面に強固に付着し、歯ブラシでは除去不可能なため、歯周ポケット内部や歯肉縁下にまで入り込み、細菌の棲みかを提供し続けます。
歯石表面はざらついているためプラークが再付着しやすく、一度歯石がつくと口臭リスクが格段にアップします。
歯科医院で行うスケーリング(超音波スケーラーや手用スケーラーを用いた歯石除去)およびルートプレーニング(歯根面の滑沢化)は、歯石を完全に除去し、バイオフィルムの再付着を抑制する根本的な治療です。
治療後は歯肉の炎症が軽減し、ポケットの深さも改善傾向を示すため、嫌気性菌が繁殖しにくい環境が復活します。
さらに、定期的なプロフェッショナルクリーニング(PMTC)でプラークを徹底的に染め出し、歯面を研磨することで再付着を予防。
一般的に、歯石・歯垢除去後3ヵ月以内に効果が低下し始めるため、3ヵ月周期のメインテナンスが推奨されます。
口臭の根本改善を目指すなら、セルフケアだけでなく専門的なスケーリング・ルートプレーニングによる歯石除去こそが最重要ステップです。
むし歯の穴が臭いの巣窟に

・進行虫歯と内部の腐敗臭
むし歯が進行すると、歯のエナメル質だけでなく象牙質や歯髄近くまで細菌が侵入し、栄養分をエサにして腐敗を起こします。特に歯の奥深くで起こる「象牙質う蝕」では、空間に閉じ込められた嫌気性菌が揮発性硫黄化合物(VSC)を大量に産生しやすく、歯の内部から腐卵臭やゴミ臭のような強烈な悪臭が常に漂う状態になります。痛みを感じにくい進行虫歯でも、穴の中で歯ブラシやマウスウォッシュが届かず、細菌の大繁殖が続く限り臭気は消えません。歯科ではう蝕検知液で感染部位を可視化し、感染歯質を完全に除去することで腐敗臭の根源を断ち切ります。
・小さな初期虫歯でも要注意
初期虫歯(ホワイトスポット)はエナメル質表層の脱灰で生じる白濁部ですが、肉眼では浅く見えても象牙質内でバクテリアの活動が始まっている場合があります。特にエナメル質のヒビ割れや隣接面の凹凸に細菌が潜むと、そこが小さな「臭いの温床」になることも。初期段階でも舌で触れるとざらつきを感じる場合は、プラークが留まりやすく酸やVSCを産生する細菌が定着しているサインです。セルフチェックでは、舌鏡で歯の隣接面や噛む面の小さな溝を観察し、光の反射が鈍い・ざらつくときは早めに受診を。フッ素塗布や再石灰化ペーストで進行を止めるだけでなく、軽度なうちに清掃と予防処置を施すことで、口臭リスクを格段に下げられます。
・レジン修復のポイント
むし歯を削った後のレジン(歯科用プラスチック)充填は、単に穴を埋めるだけでなく「細菌の再侵入を防ぐシーリング」が肝要です。十分な隔離(ラバーダム使用)と清掃で唾液や細菌を完全に遮断し、湿潤のない状態でプライマーとボンディング剤を適切に塗布します。レジンは光重合タイプが一般的ですが、硬化不良を防ぐために照射時間をメーカー基準以上に確保し、複数方向からムラなく光を当てることが重要です。また、咬合面の段差や接触点が不適切だとプラークが再付着しやすくなるため、修復後は咬合調整と研磨を丁寧に行い、表面を滑らかに仕上げることが口臭防止に直結します。適切なレジン修復を受けることで、むし歯由来の臭気源を根本から封じ込められます。
舌苔こそ最大の臭気源

・舌表面の細胞剥離とバクテリア棲家
舌の表面は無数の乳頭(舌乳頭)が走っており、その凹凸に口腔上皮の剥離細胞や食物残渣、細菌が絡みついて“舌苔(ぜったい)”を形成します。特に舌の中央部や根元側には唾液の流れが届きにくいため、嫌気性菌が増殖しやすい環境となり、VSC(揮発性硫黄化合物)を大量に産生。こうした腐敗臭は歯周ポケットやむし歯以上に強く感じられることが多く、口臭の主因となるケースも少なくありません。セルフチェックでは、鏡で舌を前に突き出し、白から黄褐色の苔状堆積が厚く見える場合、舌苔が口臭の大きな要素になっていると考えましょう。
・舌クリーナー vs 舌ブラシの選び方
舌苔除去用具には、舌を“かき出す”スプーン状の舌クリーナーと、“ブラシでなでる”タイプの舌ブラシがあります。舌クリーナーは広範囲を一度にオフでき、歯茎や粘膜を傷めにくい反面、細かな凹凸に残る細菌を取り切れない場合があります。舌ブラシは毛先が舌乳頭の間に入り込みやすく、細部まで清掃できますが、強くこすりすぎると粘膜を傷つけ出血や増殖反応を招く恐れがあります。初めての方や粘膜が敏感な方は舌クリーナーで大まかに除去し、その後やや硬めの舌ブラシで仕上げる“併用テクニック”がおすすめです。
・定期的な舌ケアの習慣化
舌苔は一度取っても24時間以内に再び堆積を始めるため、毎日の舌ケア習慣が欠かせません。推奨ペースは、朝の歯磨き後と就寝前の1日2回。水またはマウスウォッシュで舌を軽く湿らせた状態でクリーナーやブラシを舌根から先端に向かって優しく5~10回滑らせ、すすぎを行います。過度な力は避け、痛みや出血がない範囲で実施することが長続きのコツです。就寝前に行うと、夜間の嫌気性菌の増殖を抑制し、翌朝の強い口臭を防ぐ効果が高まります。習慣化のポイントは、歯磨き同様に視界に入る場所に用具を置き、「舌ケアも歯磨きの一環」と捉えること。継続することで口臭だけでなく、味覚の鮮明化や口内の爽快感も実感できるようになります。
5. ドライマウスが招く口臭スパイラル

・唾液の抗菌・緩衝機能低下
唾液にはリゾチームやラクトフェリン、免疫グロブリンA(IgA)などの抗菌成分と、重炭酸イオンによるpH緩衝能が備わり、口腔内の細菌増殖を日常的に抑えています。しかしドライマウスでは唾液分泌量が減ることでこれらの機能が低下し、嫌気性菌が増殖しやすい環境となります。唾液中の抗菌ペプチドは菌体膜を破壊してバクテリアを死滅させますが、量が不足するとプラーク内で細菌が温存・活性化し、VSC(揮発性硫黄化合物)の産生源となります。また、緩衝能が弱まると食後に口腔pHが酸性に長く留まり、脱灰だけでなく細菌代謝を促進。結果として口臭は悪化の一途をたどり、口の渇き→抗菌/中和低下→細菌増殖→口臭強化→さらに渇き、という負のスパイラルに陥りやすくなります。
・ドライマウス自己チェック法
悪化を防ぐには早期発見が鍵です。自宅で簡単にできる自己チェック法として、①ガーゼ湿潤テスト:10秒間ガーゼを口腔内に含み、重量増加が0.2g未満なら要注意、②起床時の渇き度セルフスコア:0(潤っている)~5(極度に乾燥)の表を用意し、毎朝の自覚を記録、③30秒うがい後のpH試験紙テスト:口腔内pHが6.5未満なら緩衝能低下を示唆、などが挙げられます。これらを「口腔乾燥セルフチェックシート」に記録し、変化の傾向を可視化することで、専門医の診断を受けるタイミングを逃しません。
・保湿対策と歯科での治療オプション
まずは市販の保湿ジェル・スプレーで口腔粘膜に潤いの薄膜を形成し、唾液の代わりに抗菌・潤滑をサポートします。さらに、マウスウォッシュではノンアルコール・無糖タイプを選び、再石灰化を促すフッ化物配合品を就寝前に使用すると効果的です。歯科医院では、まず唾液分泌量測定で定量評価を行い、必要に応じて唾液腺マッサージ指導や局所用ムスカリン作動薬(ジェルタイプ)を処方。重症例では低出力レーザー照射による唾液腺活性化を組み合わせることで、唾液量を10~20%増加させ、口臭スパイラルを断ち切る治療プランを提案します。
6. 食習慣が変える口腔環境

・ネギ・ニンニクなど臭気食材の影響
ネギやニンニク、玉ねぎに含まれるアリシンや硫化アリルは、その強い臭気が調理直後から口腔内で揮発し、血流に乗って呼気からも放散します。これらの化合物は耐熱性が高く、加熱しても分解されにくいため、食後数時間は口臭の主因となります。さらに、アリシン類は唾液中のタンパク質と結合して持続的に臭いを放つため、歯磨き後も完全には消え切りません。ネギやニンニクを使ったメニューを楽しむ際は、食事の最後にパセリや大葉をかじる、あるいは緑茶でうがいをすることで、ポリフェノールが揮発性硫黄化合物を中和し、臭気を和らげる工夫が有効です。
・食後pH変動と細菌増殖の関係
糖質を含む食事を取ると、プラーク中の細菌が糖を分解して酸を産生し、瞬時に口腔内pHを5.5以下へ低下させます。この酸性状態は歯の脱灰を進行させるだけでなく、嫌気性菌が活性化しやすい微酸性環境をつくり、揮発性硫黄化合物(VSC)の生成を促進します。通常、唾液の緩衝能で20~30分以内にpHは回復しますが、頻繁な間食や甘い飲料の継続的摂取では酸性時間が延長し、細菌が増殖しやすい状況が恒常化します。食後は水分補給や無糖緑茶うがい、キシリトールタブレットで唾液分泌を促し、pHを中性へ戻すことで細菌増殖を抑制し、口臭リスクを低減できます。
・口臭予防に役立つ食材と調理法
口臭抑制に役立つ食材としては、ヨーグルトやキウイ、りんごなどの乳酸菌・食物繊維・有機酸を含むものが挙げられます。ヨーグルトに含まれる乳酸菌は口腔内細菌叢のバランスを整え、食後の悪臭菌を抑制。果物のクエン酸やリンゴ酸は唾液分泌を促し、緩衝能を向上させます。調理法としては、酸味ドレッシングや香味野菜のマリネにレモン汁や酢を加える、またオリーブオイル+ハーブを合わせたソースで食材を和えることで、唾液分泌刺激と抗菌作用を同時に活用できます。さらに、食後に水出し緑茶を飲むことでポリフェノールがVSCを中和し、口腔内を洗浄。これらの食材・調理法を日常に取り入れることで、口臭発生源を根本から減らすことが可能です。
全身疾患・薬剤による口臭リスク

・胃食道逆流症(GERD)と口臭
胃食道逆流症(GERD)は、胃酸や消化酵素が食道を逆流し、口腔内へ到達することで酸性の腐敗臭や硫化水素様の臭気を発生させます。慢性的な逆流によって食道粘膜だけでなく、咽頭や口腔粘膜にも炎症が広がり、分泌される粘液が細菌の栄養源となってVSC(揮発性硫黄化合物)が過剰生産されるのが特徴です。抑制には、歯科での逆流性刺激物質の除去に加え、逆流を軽減する生活習慣指導(就寝時の頭部高位、食後2~3時間は仰臥位を避ける)や、内科との連携によるプロトンポンプ阻害薬の適正使用が効果的です。
・糖尿病と呼気中アセトン臭
糖尿病では、インスリン不足やインスリン抵抗性によりブドウ糖が細胞内に取り込まれず、エネルギー源として脂肪が代謝されるケトン体生成が亢進します。その結果、呼気や汗、尿に含まれるアセトンやアセト酢酸の臭いが「甘い果物の腐敗臭」のように感じられ、これが口臭として顕在化します。歯科では、糖尿病患者の口腔ケアとして、血糖コントロール状況を把握しながら、舌苔やプラーク除去を徹底し、ケトン体の口腔内残留を最小化するプロフェッショナルクリーニングを定期的に行います。さらに、内科との情報共有でHbA1cや食事内容を把握し、口腔内の代謝環境を改善する連携ケアが求められます。
・抗ヒスタミン薬・降圧薬などの副作用
抗ヒスタミン薬(花粉症薬)、降圧薬、抗うつ薬など多くの常用薬は、中枢神経系や末梢神経系のムスカリン受容体を遮断し、唾液分泌を抑制することがあります。唾液が減ると抗菌・緩衝機能が低下し、細菌によるVSC産生が増大して口臭を悪化させます。薬剤性ドライマウスが疑われる場合は、医師や薬剤師に相談のうえで代替薬への切り替えや服用タイミングの調整を検討。歯科では、唾液分泌を補う保湿剤や唾液刺激剤の処方、セルフケア指導(こまめな水うがい・唾液マッサージ)を組み合わせて、薬剤由来口臭の軽減を図ります。
根本治療プラン:歯科的アプローチ

・歯石除去とプロフェッショナルクリーニング
歯石はプラークが唾液中のカルシウム・リン酸と結合して硬化したもので、歯面に頑固に付着し、嫌気性細菌の棲みかとなって口臭の温床になります。当院ではまず超音波スケーラーを用いて歯肉縁上・縁下の歯石を丁寧に破砕除去し、その後、ハンドスケーラーで細部に残った歯石やバイオフィルムを手用器具で完全に掻き出します。さらに、ラバーカップと専用研磨ペーストによるポリッシングで歯面を滑らかに整え、プラークの再付着を抑制。施術後には歯肉の炎症が軽減し、歯周ポケット内の細菌数が顕著に減少するため、施術直後から口腔内の爽快感が実感できます。
・歯周基本治療(SRP:スケーリング&ルートプレーニング)
スケーリング&ルートプレーニング(SRP)は、歯周ポケット内に潜む歯石や病的プラークを徹底除去し、汚染された歯根面を滑沢化する歯周病治療のゴールドスタンダードです。当院では局所麻酔を施し、超音波チップでポケット深部の歯石を破砕しつつ除去。続いて、歯肉縁下に残った硬化バイオフィルムを手用キュレットで丁寧に剥離し、歯根面を平滑化します。この工程により歯根面のざらつきがなくなるため、細菌の再付着を大幅に抑制し、歯肉の再付着を促進。1回の治療でポケット深度が平均1~2mm改善し、嫌気性環境が減少して揮発性硫黄化合物(VSC)の産生も低下します。定期的なSRPは口臭の根本原因にアプローチし、長期的な再発予防に欠かせません。
・舌苔除去+抗菌リンス併用
舌苔は舌背部の乳頭の隙間に剥離上皮、食物残渣、細菌が絡みついて形成され、口臭の大部分を占めるVSC産生源となります。当院ではまず舌クリーナーや舌ブラシで舌根部から先端に向かい優しく5~10回スライドさせ、舌苔を機械的に除去。その後、クロルヘキシジンやCPC(セチルピリジニウム塩化物)配合の抗菌リンスを用いて舌全体をブクブクうがいし、残存菌の繁殖を抑制します。さらに、乾燥しやすい舌粘膜にはヒアルロン酸配合の保湿ジェルを塗布し、潤い膜を形成して粘膜のバリア機能をサポート。これらの機械的除去+化学的抑制+保湿ケアを組み合わせることで、舌苔の再形成を遅らせ、持続的に口臭を抑制する環境を構築します。
Q&Aで学ぶ!口臭ケアのよくある疑問

Q1: 朝起きたときの強い口臭はどう対策すべき?
起床時の口臭は、就寝中に唾液分泌が減少して嫌気性菌が増殖し、揮発性硫黄化合物(VSC)が蓄積することが主な原因です。対策としては、就寝前にプロフェッショナルクリーニングでプラークを徹底除去し、舌苔ケアで舌背部の細菌を減らすことが第一歩。さらに、就寝前のフッ化物配合洗口液によるうがいや、保湿ジェル・スプレーでの粘膜コーティングが効果的です。室内を適度に加湿し、口呼吸を防ぐためのマウスピースや口閉じテープを併用すると、夜間の乾燥を抑え、朝の嫌な口臭を大幅に軽減できます。
Q2: 市販のマウスウォッシュやガムはどの程度効果がある?
市販のマウスウォッシュやキシリトールガムは、口腔内の一時的なリフレッシュや唾液分泌促進に有用ですが、根本治療には至りません。抗菌成分(クロルヘキシジンやセチルピリジニウム塩化物)配合の洗口液は、VSC産生菌を一定時間抑制しますが、使用後数時間で効果が薄れるため、1日2~3回の継続が必要です。ガムやタブレットは唾液分泌を促すものの、噛まないと効果が得られず、就寝中の口臭には無力です。あくまで歯科でのクリーニングやSRP、舌ケアと併用し、「対症ケア」として取り入れることが望ましいでしょう。
Q3: 口臭が改善しない場合、いつ歯科に相談すればいい?
セルフケア(ブラッシング+舌苔ケア+保湿ケア)を2~3週間続けても口臭が改善しない、あるいは日常生活で他人から指摘された場合は、早めに歯科受診を検討してください。特に、起床時の口臭が強い、歯周ポケットの深さが4mm以上、歯肉出血や膿漏がある、むし歯の穴があるなどの症状が併発していれば即時受診が必要です。当院ではVSC測定、歯周検査、舌苔検査を組み合わせて徹底的に原因を特定し、プロフェッショナルクリーニングやSRP、舌ケア指導を含むオーダーメイドの根本治療プランをご提案します。口臭の悩みは早期対処が大切ですので、お気軽にご相談ください。
監修:広尾麻布歯科
所在地〒:東京都渋谷区広尾5-13-6 1階
電話番号☎:03-5422-6868
*監修者
広尾麻布歯科
ドクター 安達 英一
*出身大学
日本大学歯学部
*経歴
・日本大学歯学部付属歯科病院 勤務
・東京都式根島歯科診療所 勤務
・長崎県澤本歯科医院 勤務
・医療法人社団東杏会丸ビル歯科 勤務
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